高強度多孔質ゲル
1. マクロポーラスゲル
1μmを超える細孔を有するハイドロゲルは、IUPACによって定義された50 nmから1μmの範囲の細孔を有するマクロポーラスゲルと区別するために、スーパーマクロポーラス(SMP)ハイドロゲルと呼ばれます。 スポンジ状の構造と透過性を備えたSMPハイドロゲルは、バイオエンジニアリングと生物医学的応用において大きな注目を集めています。ただし、低密度構造による機械的な弱点は、応用に向けた課題の1つでした。 SMPゲルの機械的弱点は、主に2つの理由に由来します。1つ目として、材料の機械的強度は細孔の体積分率の増加とともに減少します。細孔はバルク材料の欠陥と見なされ、そこから亀裂が発生します。2つ目として、一般的なSMPゲルは、大きなエネルギー散逸メカニズムを持たないシングルネットワーク(SN)ゲルでできていることです。したがって、多孔質ゲルの機械的強度を改善する簡単な戦略は、ダブルネットワーク化することにあります。
2. 強靭性マクロポーラスゲル
私たちの最近の研究 [1]では、2003年に当研究室で発明されたダブルネットワーク(DN)戦略[2]に基づいて高靱性なSMPゲルを調製するための、「二段階氷結重合技術」を報告しました。図2に示したように、氷結晶を成長させた状態でゲル前駆溶液を重合すると、氷が鋳型となったポーラスゲルが得られます。これを2回繰り返すことでSMP・DNゲルが得られます。合成されたSMP・DNゲルは、50〜230μm程度で連通穴構造を持ったされたポアを有していました。また、最大100 kPaの圧縮弾性率を示しました。これは対応するSMPシングルネットワーク(SN)ゲルの2〜4倍であり、80%の圧縮で最大1MPaの圧縮強度を示しました。 SMP・DNゲルは、最大38 kJ/m3の伸長仕事量を示し、SNゲルよりも1〜2桁高いです。これらの高い剛性と伸縮性は、従来の氷結重合で得られるポーラスゲルとは大きく違います。開発した技術は、さまざまなポリマー種からSMP・DNゲルを調製することが可能なので、さまざまな生物工学および生物医学のニーズを満たす事が可能です。私たちの開発したPNaAMPSとPAAmに基づくSMP・DNゲルは、報告されている連続気泡形態を備えたゲルの中で最も靭性の高いゲルです。
A video showing the properties of DN cryogels in comparison to corresponding SN cryogels
Scheme 1. SMP・DNゲルを調製するための2段階凍結ゲル化の概略図:最初の高分子電解質ネットワークは、モノマーとして2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(NaAMPS)、架橋剤としてN、N’-メチレンビス(アクリルアミド)から得られます。 2番目の中性ネットワークは、モノマーとしてアクリルアミド(AAm)、架橋剤としてMBAAmから得られます。 2回目の中性ゲルの重合では、氷結晶が最初のPNaAMPSゲルのポーラス構造を専有するので、ポーラス構造を保持した状態でゲルが得られます。
参考文献
- 1. Sedlačík, T.; Nonoyama, T.; Guo, H.; Kiyama, R.; Nakajima, T.; Takeda, Y., Kurokawa, T.; Gong, J. P. Preparation of tough double- and triple-network supermacroporous hydrogels through repeated cryogelation. Chem Mater 2020, 32, 19 8576-8586.
- 2. Gong, J.; Katsuyama, Y.; Kurokawa, T.; Osada, Y. Double-Network Hydrogels with Extremely High Mechanical Strength.Adv. Mater. 2003, 15, 1155– 1158.