研究2 がんにおけるメカノバイオロジー

私はがんにおけるメカノバイオロジーについても研究を進めています。メカノバイオロジーは硬さや力などに着目した生物学の比較的新しい分野です。メカノバイオロジーの観点からがんを理解し、それを治療に応用できることを目指しています。

がん細胞のメカノバイオロジー

がん細胞は周囲の組織の硬さに応答して悪性化することが知られています。私たちは、がん細胞が硬い組織に接したときに、その硬さを感知して、転写因子NF-κBを活性化させることを発見しました(図、Ishihara et al., Experimental Cell Research 2013)。

NF-κBはがんの進行を引き起こすことが知られている重要な転写因子です。実際に、硬さを感知したがん細胞はNF-κBを介して悪性度の高い形態を示すことをみつけました。この研究から、がん細胞が硬い組織中でNF-κBを介してがんを進行させる可能性を示しました。


がんにおける間葉系幹細胞のメカノバイオロジー

腫瘍はがん細胞の塊ではありますが、その中にはがん細胞以外の細胞が存在することがあります。そのような細胞の一つとして間葉系幹細胞が知られています。

私たちは、間葉系幹細胞が硬い組織上でがん関連繊維芽細胞様に分化することを発見しました(図、Ishihara et al., Cancer Research 2017; Ishihara et al., Oncoscience 2017:がん関連繊維芽細胞のマーカーの一つであるαSMAを高発現していることがわかります)。さらに、このように分化した細胞は液性因子Prosaposinを分泌してがんの成長を引き起こすことをみつけました。


現在は、メカノバイオロジーの観点からがん細胞の浸潤について研究を行っています。特に、がん細胞に加わる力に着目しています。さらに、がん細胞が硬さに応答して悪性化する際の詳細な分子機構の解明を目指しています。また、転移が起きる仕組みについてもメカノバイオロジーの観点から明らかにしようとしています。