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学生のみなさんへ

 構造生物化学研究室という名前の研究室を2022年からスタートさせました。明確に「還元主義」という立場ではありませんが、生命現象を化学反応の集合と捉え、蛋白質が担う各反応や、反応の集合である相互作用と、細胞内での生物現象をリンクさせたいという志を、研究室名に載せました。蛋白質世界は奥深く、いわゆる生物学のほか、有機化学、熱力学、量子力学や解析手法としての多くの物理学・数学が必要となり、完全に理解することは不可能に思えます。様々な学問が必要だからこそ、巧妙な蛋白質世界の一部分でもオリジナルな視点で捉える=「開拓する」ことはとても楽しいです。多くの引き出しが求められるからこそ、それぞれの研究者ごとにアウトプット方向性に変化を与えられます。このように自分自身のプロファイルを、研究を通して作っていくことが醍醐味であり、そのために上記のような様々な学問の、学部講義レベルの理解を大事にしたいと考えます。

 研究室によっておこなえる研究内容は異なります。今後の生命科学、私達の研究室はどのような現象に着眼し、どういった手法論で展開すれば良いのでしょうか?私達は従来より、蛋白質などの生体高分子に着目し、立体構造を観たり、相互作用解析、酵素による物質変換過程を追跡したりしてきました。いわゆる「構造生物学」という分野に相当します。構造生物学はそこまで歴史は深くないですが、急激に発達する要素技術の影響を受け、5年単位くらいで大きく変化が起こっています。2022年時点では、クライオ電顕による巨大分子複合体の構造解析や、AIによる立体構造予測が席巻しています。蛋白質が機能しているオングストロームレベルの世界から、細胞コンパートメントのマイクロメートルのスケールまでを連続して論じること(クロススケール/トランススケール)が1つの潮流と言えます。一方で、蛋白質の働きを知るためにはさらに小さな世界(量子力学)の理解が必要になるという方向性も、一つの潮流になると考えられます。AIに振り回されるのではなく、AIを先回りしてリードしAIに対しインプットをおこなっていくことも、使命の一つと考えます。そのためにもメンバー皆で考え活動していければと思います。精度の高い構造を知るためにはX線結晶学・中性子結晶学も不可欠ですし、機能状態を動的に捉える上でNMRも積極的に活用していきたいです。

 研究対象としている実際の現象は、「免疫系とウイルスの攻防」や「がん化とシグナル伝達経路」「特異的な酵素反応」「水素位置が重要となる現象(水素生物学)」などです(Researchタブをご覧ください)。こういった現象に対し、オリジナルの視点を常に持って研究をできることが、「研究は楽しい」に繋がると信じています。独創性を出すためには基本的な理論を理解していることが欠かせないと考えているため、研究室輪読会では結晶学・電顕学の基礎学習を毎年おこないます。こちらは、理学部講義「結晶学・電顕学」とリンクさせ、学部講義を修士学生や博士学生の学び直しにも活用して欲しいです。NMRに関しても、専門家主宰のオンライン輪読会に研究室メンバーが積極的に参加しています。食べ過ぎは良くないですが、メンバーが自分の好奇心・プロジェクトに応じて、様々に学び研究活動に取り入れられるように工夫をしていきたいと思っています。

自分の意思で自分だけのプロファイルを作っていきたいと思う人は、是非一緒に創造活動をしましょう。