研究紹介

タンパク質の謎に迫る

タンパク質は複雑な立体構造を形成することで分子機械として働き、生命活動に必要なあらゆる仕事をします。 現在、ゲノムプロジェクトにより多くのタンパク質の設計図が明らかになっていますが、この設計図から正しい立体構造が形成され、機能を発揮する仕組みには未知の点が多く残されています。 私たちは、遺伝子工学によるタンパク質の大量生産技術や分子構造を調べることが出来るNMR法等を駆使して、微生物から昆虫、人まで様々な生物のタンパク質の研究を進めています。

タンパク質の立体構造や機能を自由自在に操ることを究極の目標としつつ、広い分野の研究者と連携し、タンパク質を医薬や産業へと応用する研究も展開しています。 たった20種類のアミノ酸の組み合わせで、極めて多様な働きをするタンパク質、その研究に挑戦してみたい皆さんを歓迎します。

タンパク質を作る

タンパク質の立体構造や機能を研究し、応用するためには、生体内で働く微量のタンパク質を人工的に大量に得る技術が必須となります。そこで用いられる技術が遺伝子組換え技術です。 大腸菌や酵母といった短期間で大量に培養することが可能な微生物などに、ヒトを初めとする様々な生物のタンパク質の設計図である遺伝子を人工的に導入することで大量のタンパク質を遺伝子組換えタンパク質として得ることが期待できます。 しかし、実際に遺伝子組換えタンパク質として効率よく生産するためには様々なハードルがあり、その手法の検討も重要な研究テーマとなります。

私達の研究室では、タンパク質の中でもサイズが小さく中分子創薬でも注目されるペプチドを中心として、遺伝子組換え技術を利用した効率的な生産技術の開発に取り組んでいます。

・合成の困難な抗菌ペプチドを融合タンパク質として効率よく生産する新技術開発に成功
Over-expression of antimicrobial, anticancer and transmembrane peptides in Escherichia coli through a calmodulin-peptide fusion system.
Ishida H et al. J Am Chem Soc. 138:113-26 (2016)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27502305

・メタノール資化性酵母を用いて植物由来の抗菌ペプチドの大量生産に成功
Expression, purification and characterization of the recombinant cysteine-rich antimicrobial peptide snakin-1 in Pichia pastoris.
Kuddus MR et al. Protein Expr Purif. 122:15-22 (2016)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26854372

・共発現により不溶性顆粒を形成させ抗菌ペプチドを生産する新技術を開発
Overexpression of an antimicrobial peptide derived from C. elegans using an aggregation-prone protein coexpression system.
Tomisawa S et al. AMB Express. 3, 45 (2013)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23945047


図 メタノール資化性酵母を用いたタンパク質・ペプチドの大量生産

タンパク質を調べる


図 抗菌ペプチドとLPSとの相互作用

遺伝子組換え技術により大量のタンパク質を生産することで、大量の試料を必要とするX線結晶構造解析やNMR法といったタンパク質の立体構造をする技術の利用が可能になります。 タンパク質の立体構造を解析することは、その機能を明らかにし人工的な機能を持つタンパク質分子をデザインする基礎的な知識を蓄積する重要なステップと言えます。

私達の研究室では、タンパク質分子の立体構造だけでなく、相互作用や活性や機能の発現に重要な分子内部の動き(運動性)を解析可能なNMR法を駆使し、タンパク質やペプチドの立体構造解析を進め、その立体構造形成や機能発現の謎の解明を目指しています。

・NMR法による解析に有用なαデフェンシンの安定同位体標識に成功
Efficient production of a correctly folded mouse α-defensin, cryptdin-4, by refolding during inclusion body solubilization.
Tomisawa S et al. Protein Expr Purif. 112, 21-8 (2015)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25913370

・固体NMR法によるタンパク質の立体構造解析技術の新技術の開発
Structure determination of uniformly 13C, 15N labeled protein using qualitative distance restraints from MAS solid-state 13C-NMR observed paramagnetic relaxation enhancement.
Tamaki H et al. J Biomol NMR. 64, 87-101 (2016)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26728076

・抗菌ペプチドのターゲットである微生物外膜の構成成分LPSとの相互作用解析
Lipopolysaccharide-bound structure of the antimicrobial peptide cecropin P1 determined by nuclear magnetic resonance spectroscopy.
Baek MH et al. J Pept Sci. 22, 214-21 (2016)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26939541

タンパク質を操る

NMR法によりタンパク質の立体構造と機能の関係を明らかにすることで、人工的に高機能の分子をデザインすることが期待できます。遺伝子組換え技術によるタンパク質生産では設計図の遺伝子を書き換えることで自由に配列を改変したタンパク質を生産することができます。 また、遺伝子組換え技術の活用により、有用なタンパク質やペプチドの大量生産に成功することは、それらを医薬や産業で大量に用いるための基盤作りとしても重要な基礎技術となります。

私達は、医学部農学部等の他学部や他大学や企業等との共同研究を進め、タンパク質やペプチドを利用した応用技術の開発にも積極的に取り組んでいます。

・抗菌ペプチドを利用した病原性微生物の新規検出技術の開発に成功
Development of a novel multiplex lateral flow assay using an antimicrobial peptide for the detection of Shiga toxin-producing Escherichia coli.
Yonekita T et al. J Microbiol Methods. 93. 251-6 (2013)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23523969

・抗腫瘍活性を持つタンパク質―脂肪酸複合体の作用機構をNMR法により解明
Molecular mechanisms of the cytotoxicity of human α-lactalbumin made lethal to tumor cells (HAMLET) and other protein-oleic acid complexes.
Nakamura T et al. J Biol Chem. 288, 14408-16 (2013)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23580643

・農産物に被害を与える害虫の免疫機構を制御するペプチドの作用をNMR法により解析
A novel peptide mediates aggregation and migration of hemocytes from an insect.
Nakatogawa S et al. Curr Biol. 19, 779-85 (2009)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19375321


図 抗菌ペプチドを利用した病原性微生物の新規検出技術