北海道大学大学院先端生命科学研究院 細胞ダイナミクス科学研究室(第3研究室)先端融合科学研究部門 

研究生活インタビュー 修士課程2年 山口直哉さん

どんな事でも、最初は手作り。
やりたい実験が山ほどあります。

後輩に贈るメッセージ
修士課程2年 山口直哉 さん

※学年、所属は2014年度のものになります。

研究の工夫と、未知を探るおもしろさ

――研究で、大変なことは何でしょうか? 山口さんの研究内容で、リーダー細胞だけを針で刺すのは、とても難しそうに聞こえますが。

 それは、そこまで難しいことではありません。なんでもそうだと思いますが、繰り返し実験することで上達します。細胞には核があって、そこを狙って刺すようにします。

 現在、世界の主流では、細胞の動きをコンピュータに任せることで計算します。しかしながら、私の今回の研究では、ひとつひとつの細胞に点を打つことで、細胞の運動を計算しました。実はこの作業に大変な労力がかかっています。ある時間の細胞の座標と、5分時間を進めた細胞の座標をだして、その情報から、細胞の動いた方向ごとに色をつけて、このような画像を作っています。そのため、一枚の図を作るのに、ものすごい数の点を打ちました。少なくとも全部で一万点くらいは打ったはずです。これは卒業研究の終わりに取り組みましたが、その時は提出期限が迫っていて、他の方法を検討する余地がありませんでした。しかし、この方法であれば間に合うことがわかっていたので、集中してやりました。学会で「手で打ちました」と言いますと、皆様驚かれます。細胞の運動速度なども全部、この方法で求めた細胞の座標から計算して出しています。

――きれいな図に、そんな努力が。意外と体力で作られていたんですね。

 研究を進めていくと、どこかで体力勝負になると思っています。やれば結果が出ることがわかっていて、やらなきゃ進まないという時には、面倒くさがってはいけません。ブルドーザーみたいに「えいや!」と取り組まないといけないと自分に言い聞かせています。

――みなさんの実験方法は、ちょくちょく手作りの部分がある印象なのですが、知りたいことに合わせてやり方を考えている、という事でしょうか?

 そうです。研究に限らず、どんなことでも最初のころは全部、手作りだと思います。細胞を殺す実験では、レーザーで焼き切る方法が一般的です。しかし、レーザーの装置がなかったので、顕微鏡で見ながらガラスの針で刺しました。

――あるもので工夫しているんですね。研究全般で面白いなあ、と興味を惹かれているのは、どんなところですか?

 生命現象は、やはり単純に面白いです。たとえば研究内容でお話した、細胞の集団運動。あの現象は、どのようなメカニズムで起きているのか、まだ多くのことがわかっていないんですよ。リーダー細胞の一部は解明できましたが、もう次から次にわからない事が出てきます。知りたい事が山ほどあり、取り組みたい実験も沢山あって、時間が足りないし人手も足りない、という状態です。昔の論文を読みますと、過去に研究された方々が貯めてきてくれたデータの蓄積があります。そのように、文献を勉強してから自分の扱っている対象を見ると、もしかしたらこうなっているかもしれない? と考えられるようになります。それを確かめたい、証明したい、と思います。

研究室を選んだ理由は「興味があるなら、来てもいいよ」

――この研究室を選んだ決め手はなんですか?

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研究室にある座談スペース

 私がこの研究室に通い始めたのは、学部2年生の10月です。これは時期的に、とても早く、インターンの扱いでした。芳賀先生が「研究に興味があるなら、研究室に来てもいいよ」と言って下さったからです。
私は研究を始めてみたいと考えていましたし、高校生の頃から実験が大好きでした。

――そのまま、ここの住人になったんですね(笑)。

 そうです。研究を始めたらどんどん面白くなってのめり込みました。その後、正式な研究室配属を経て、この研究室にお世話になっています。

――この研究室はそういった、やりたい人にはどんどんやらせてあげようという方針かと思うのですが、それは感じられますか?

 日常の研究室生活では、具体的なコアタイムもありませんので、進捗や時間管理も各個人に任せられています。良い意味で自由ですので、私には合っていたのかと思います。また、学部2年生だったにも関わらず、研究に触れてみたかった私を、迎え入れてくれたことに感謝しています。

――コアタイムは、あった方が良いと思う事はありますか?

 私自身は、朝研究室に来て夜帰宅する生活時間を守っていますので、正直なところ、どちらでも変わりません。

研究者としてのスタート地点に立って

――今後、「こんな風にやっていきたい」と思う事はありますか?

 今年、海外の大学院に出願しました。もしもどこかに合格できて、研究を続けることができたら、次の研究のテーマとしては、発生生物学をやりたいと考えています。私はずっと集団運動の研究をしてきましたが、培養細胞系で生じる生命現象というのは、生体内でも起こっているだろうと考えるようになりました。培養細胞の実験の多くは一種類の細胞だけを使いますけど、体の中にはたくさんの種類の細胞がいます。上皮細胞や、間葉系細胞、神経細胞もいます。それらが、お互いに関係して、より複雑で面白い事が起きているはずです。どうやって体が出来ていくのかを、この研究室で培った細胞生物学的な視点から研究したいと思っています。キャリアに関しては、研究を続けていく限り、なるべく良い仕事をしたい、そこにこだわりをもってやっていきたい。

 今年、一本論文を書く経験をしました。しかし、これはゴールではなくて本当にスタート地点、初めて論文の書き方を勉強したという、いちばん最初の所です。論文が出版されるまでのあれこれを、ようやく一回通してやったと、未だそんな地点です。
将来的には、教科書に載るような仕事をしたいと思っています。

――頑張ってください! ありがとうございました。

山口さんの研究「細胞の集団運動とリーダー細胞について」

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