北海道大学大学院先端生命科学研究院 細胞ダイナミクス科学研究室(第3研究室)先端融合科学研究部門 

研究生活インタビュー 博士研究員 石原誠一郎さん

研究者として育ててもらえる環境で、アイデアを磨いてほしい

後輩に贈るメッセージ
博士研究員 石原 誠一郎 さん

※学年、所属は2014年度のものになります。

研究の面白さとむずかしさ、研究を志した理由とは?

――研究の面白さとは、どんなところでしょうか?

 研究全般で一番面白いことは、やっぱり「世界の誰も知らない事がわかること」ですね。これが一番だと思います。それをするには、たぶん研究以外に手はないと思います。少なくとも、私の中ではそうです。

 今の研究テーマに関しては、「がんの治療につながるかもしれない」というのが、すごくモチベーションを上げてくれます。熱意をもって取り組める内容だと、思っています。
石原さんの研究「放射線耐性をもつ、がんの悪性化について」を読む

――がんはとても身近な病気ですし、今後に期待が出来るすばらしい研究だと思いました。 では、研究の中で、大変だなと感じられることは何ですか?

 大変な所はですね、生き物を使うので、生活を生き物の都合に合わせる必要があります。たとえば、私は、ほぼ毎日来てますけど、基本的に私が使っている細胞を飼うためには、二日に一回は必ず餌をあげなきゃいけないんです。なので、土日連続で休むことは、まずできない。出張に行く時には、誰かに餌やりをお願いしなきゃいけないと、そういうこともあります。

 あとはですね、生き物なので、予想通りにいかないんですよね(笑)。急に死んじゃったりとか。すごく丁寧にやっているんですよ? もちろん。でも、急に死んじゃったりとか、急にわけわかんない風に変わっちゃったりということがあるので「やっぱり、人間ひとりが生き物を全部知るっていうのは、難しいんだなぁ……」という事を思いながら(笑)、そこは大変なところです。
ただ、やりがいはとてもあるので、それでもやろう、という気になります。

――この研究を選んだ、この道に入ったきっかけというのは何ですか?

 研究をやろうと思ったのは、私はこれをずっとやりたいと、小学生ぐらいの時から思っていたんです。生き物が好きだったので。家の隣に花屋さんがありまして、その裏に花屋さんの庭がありまして。そこでいつも、草とか虫を見ながら「これは、何でこうなっているんだろう?」と思っていました。

研究室を選んだ理由

――生き物に、ずっと興味があったんですね。では、この研究室を選ばれた決め手は何ですか?

 研究室を選んだ決め手は、まず「生き物をちゃんと研究しているところ」というのがひとつですね。あと、やはりもうひとつは「がん」なんですよね。知り合いがけっこうがんで亡くなっているので、なんとか、がん治療に貢献したいというのを思っていまして。私が入った時には、がんの研究を始められて一年か二年目くらいでした。「今から、がんを、この研究室でやっていこう」という事だったので、じゃあ私も入って一緒にがん研究をやりたい、と思いました。

 興味のあるテーマだったのと、それと芳賀先生が、ものすごい授業で! とても良い授業をされていまして。その時にいろいろ教えていただいて、この先生のところでやりたいな、というのがありました。

――芳賀先生の研究室は、良い意味でとても特殊だと思うところがありまして、人間教育的な比重がとても高く「研究者を育てる」という側面が強いと思うのですが、それはふだん感じられる事はありますか?

 はい、そうですね。それは感じますね。私を成長させていただいたのは、間違いなくこの研究室のおかげだと思うので、私はそう思います。というのも生き物系で、私はいまポスドクまでやってるので4年生と修士1・2年、ドクター3年の、合計7~8年になりますが、生き物系の論文などが、5・6本、出せているんですよね。これにはすごく感謝しています。

 この研究室では、自分で考えて、自分で論文書いてとなるので、やっぱり研究者は育つと思いますね。論文も出させてもらっていますし、グラント、研究予算ですね。これも、いくつかいただいています。科研費っていうのもいただきましたし、学会や色んなところに出る旅費もいただきましたし、あとは今度、来年からアメリカに行くための予算も、2本当たって。1本は辞退してしまうんですけど、こうさせてもらったのも、きちんと研究者として磨いていただいたからだと思います。

 研究者としてやっていくには色々な能力がいるんですけれども、実験をきちんと出来るというのはもちろん必要ですし、自分で考えてテーマを作るというのも必要だと思いますし、あと、この研究室でけっこう大事にされているのは、「書く能力」というのがあって、自分で文章を書いて、それで研究予算を貰ってきたりとか、論文を通したりとか、そういう能力が必要になります。うちの研究室ではそこをしっかり鍛えていただけます。

研究者としてのこれから

――そういう研究室の良さを、ホームページで伝えられたらと思います。これから、研究をこんな風にやっていきたい、という事はありますか?

 将来、これからですか? えっとですね、北大にいる間はすごく頑張ってやったんですけど、研究結果を、いわゆるトップクラスの雑誌に載せることは出来なかったんです。最新の研究成果は、さきほどお話したATF5(※石原さんの研究「放射線耐性をもつ、がんの悪性化について」は2015年3月ごろ公開予定です)を「Oncotarget(オンコターゲット)」という所に掲載していただいたんですけど、「Nature(ネイチャー)」とか「Science(サイエンス)」というとても有名な雑誌がありまして、いずれはそのような雑誌に出すことを目標にやっています。そのために必要なのは、おそらく、もっと私自身のアイデアを磨かなければいけないのと、あとは研究者とのネットワークが大事だと思うんですよね。がんを研究するためには、私は細胞を使ってやっているんですけれども、医師の方々と協力した方が良かったり、あとはコンピュータの専門家の方々ですとか、そういう人たちと一緒になって作っていけば、おそらく、ネイチャーなども目指せるのではないかと思うので。

――研究チームを作るという事ですか?

 そうですね、手助けしてくれる専門の方とネットワークを作って、最終的にはそういうチームを作って、すごく良い研究をやって、それで世界の誰も思いつかなかったような、がん治療法を確立して、「がんを撲滅だ!」という事を、声を大にして言えるような時代を作りたい、という夢はあります……これ、録音されてるんですよね?(笑)

――録音されています!(笑) では、海外に旅立たれる先輩からの置き土産として、後輩に残してもらいたいコメントなのですが、今の研究室で「もっとこうだったらいいな」と思うことはありますか?

 うーん、そうですね……うちの研究室は基本的に、ひとりで研究をやるんです。学生さんひとりひとりが、それぞれひとつのテーマを持ってやっていくので、大きな研究には仕上がりにくいんですよ。たとえば一人の先生が居て、学生さん、助手、職員、みたいに団体で研究すると、短時間でたくさんの事が同時に出来ますから、研究は進むんですよね。すごく大量の実験が出来て、巨大な研究が完成しやすいんですけど、うちは、そのやり方が出来ないんです。学生さん同士が組んでひとつの研究をするということを、先生の方針でうちではやりませんので、ひとりひとりが個別のテーマを持っています。そうすると、他の研究室が大勢でやっているような実験を、1人でやらなければいけないようなことも、あるかもしれません。

 なので、それでも上に行くにはどうするかっていうと、おそらく「すごい研究計画を練ること」と、「すごく良いアイデアを持つ」ことが必要なので、そこを意識した研究というのは間違いなく必要かなと思います。たとえば「すごい効率化」だったり、頭の使い方が重要になってくると思うんですよね。なので、そういう所をぜひ考えながら、後輩たちには研究をやって欲しいなと思います。

――それは、皆でひとつのテーマを研究することを取り入れていったら良い、ということではないんでしょうか?

 私は、そうは思わないです。ジレンマですが(笑)。芳賀先生も、そこはしっかり方針をもっておられて、すごいでっかい研究テーマを作って世界と戦っていく、という事をやった方が、確かに結果は出ます。かっこいい雑誌に、論文も載せられます。でも芳賀先生は、「すごく良いところに載らなくても良いから、ひとりひとりを育てる」という風にスタンスを取られていると常日頃から明言されているので。

 ですから、それを前提として、その中でも極力上に行くにはどうしたらいいか。ひとりひとりがチームを組まないということを前提として、それでも上のレベルの研究をやるとなると、頭を使って、こういう進め方の方が効率が良いとか、あとは誰も考えた事のないアイデアですね。少ない実験量でも、すばらしい雑誌に載せるような、突拍子もない……って言い方は悪いですけど(笑)、びっくりするような研究っていうのが必要なので、それをやるためには常日頃から、意識して考えるというのが必要だと思います。

――難しいことですね、アイデアを磨くというのは。

 その通りだと思います。アイデアを磨くのは、すごく難しいですし、アイデア自体そう簡単には出ないものなんですけど。でも、おそらく研究者って、それが一番大事なんじゃないかと思います。
それでも上手く行かないですけど。「実験」なので。
あと、めげないことですね! 基本的に、実験って、ほとんど失敗なんです(笑)。

――ほとんど失敗なんですか!?

 そうです。ほとんど失敗なので、へこたれてしまうとつらいものがあります。
「上手く行かないけど、ある意味、気楽に。ある意味、一生懸命。へこたれずに、真剣に頑張る」
というのが、大事だと思っています。

――ありがとうございました!

石原さんの研究「放射線耐性をもつ、がんの悪性化について」

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