いつの間にか形を作る細胞たち
生き物の組織や臓器って立体的で三次元の形をしていますよね。
いま、「いったいどうやって三次元の形ができるのか?」という疑問に取り組んでいます。
細胞たちにとっては、どこか遠くに設計者がいるわけでもなく、細胞たちにこういう形を作れと指示を出す現場監督も存在しなくて、個々の細胞にとってはお隣りさん同士を分かる程度なはずなんです。つまり、お隣さん同士とお話ししながら生きているのに、遠くから眺めるといつの間にか決まった組織の形が出来上がっているわけです。ではどういう原理で意味のある立体的な形が出来上がっているのか、という部分が謎なんです。それはしかも、遺伝子には書かれていないはずなんですよ。DNAには、「こういうタンパク質を作りなさい」という情報は書かれているのですが、「こういう形になりなさい」という情報は書かれていないんですよね。もちろんまだ見つかっていないだけかもしれませんが。とにかく、立体的な形がどうやって生まれてくるんだろう、ということを調べています。
ゲルの軟らかさを変えると、細胞たちの作る形も変わる
これも先程と同じイヌの細胞です。ただし、今度はマトリゲルという別の種類のゲルの上で細胞を培養しています。そうすると、細胞たちは団子になって塊で動くという、一味違った不思議な動きになることが分かりました。細胞が丸くなってグルグル回っていますよね。これはいったい何なのかなと調べてみたところ、軟らかいゲルの上では、細胞たちが帽子みたいな立体構造になるということが分かりました。このように、同じ種類の細胞でも培養環境によって全然違う動きをしたり形を作るということが分かってきました。
あるいは、これも同じイヌの細胞ですが、ゲルをちょっとだけ細工しています。組成を変えて、少し硬くしたりドロドロにしたりして、粘っこさを変えると、細胞の集団としての形がどんどん変わってきます。
じゃあどうして、まったく同じゲルでも粘っこさを変えることで細胞集団の形が変わるのかということなのですが、細胞って動くときにいつも力を出しているんですね。ムキッと、下地に対して力を入れています。もしも足場となるゲルが軟らかいと、土台がぐにゅっとたわむので、細胞たちが下地をつまむ力でゲル全体が変形して、結果的に立体的な形ができているのではないかと考えています。つまり、一個一個の細胞はとくに特定の形を作りたいわけじゃなくて、たまたま周りの硬さとか力のバランスによって形が出来上がるんじゃないか、というのが私たちの仮説です。
(※詳しくは、「細胞集団と培養基盤とが織りなす立体的なカタチ」をご覧ください)