分子生物学基礎研究,その他


DNA結合蛋白質の構造解明

DNA結合蛋白質HU

真核生物では,DNAはヒストン8量体をコアーとしてその周りに1.75回巻きついてヌクレオソームと呼ばれる構造体を形成する. 一方,ヒストンを持たない原核生物においてDNAと結合して核様体を形成する蛋白質はヒストン様蛋白質と呼ばれている. 1975年YanivとGrosにより大腸菌のU株より精製され,ヒストンに類似した性質を示すことから, HUと命名された耐熱性のDNA結合蛋白質HUは典型的なヒストン様蛋白質である. この蛋白質は通常2量体として存在しており,サブユニットあたりの残基数は90で, 細胞あたりのコピー数は2量体にして約30,000個と見積もられている. 1本鎖,2本鎖のDNAに対して塩基非特異的に結合する他,rRNAにも結合することが知られている. HU蛋白質は固い2量体コアーと1対の長い腕を持っており,そのフレキシブルな腕でDNAを抱え込むようにして結合するものと考えられる. この蛋白質が結合することでDNAは鋭く折れ曲がる.DNAを折り曲げるこの性質は,原核生物のDNAをコンパクトに折りたたむことに, あるいは,DNA上で働くさまざまな蛋白質の働きを補助するのに役立っている.

免疫系情報伝達因子

生体は分化・増殖など,恒常性維持のために様々な情報を細胞間で交換しています. こうした細胞間情報伝達を担う液性因子のうち, 特に免疫系や造血系に関わる因子をサイトカイン(免疫情報伝達因子)と呼びます. 我々の研究室では、マクロファージや白血球といった, 生体防御に関わる細胞に対して重要な活性を有するいくつかのタンパク質の構造解析を行い, その立体構造を明らかにすることで, それらの免疫系情報伝達因子機能の解明を目指しています.

マクロファージ遊走阻止因子(MIF) D-dopachrome tautmerase (DDT)

生体は体内に入り込んだ外界からの異物(例えば病原菌など) を取り除き自分を守るためのシステムを有しています. マクロファージは体内を移動(遊走)し,異物を発見すると, それを食べて分解する働きを持つ細胞です. MIFは,異物を認識したT細胞から分泌され, その名の示すとおり遊走してきたマクロファージをその場に留まらせる活性を示します. これにより,異物の周りにマクロファージが集まり,異物の速やかな除去が促進されるのです. MIFにはこの他にも様々な働きがあることが調べられており, 免疫系の調節因子として注目されています. DDTは,その生体内での生理活性については良く解っていませんが, MIFと類似したアミノ酸配列を持つことから, MIF同様の機能があるのではないかと考えられているタンパク質です.

MRP8MRP14

マクロファージ同様に異物を取り込んで分解する働きを持つ好中球(白血球の一種)や, 単球(マクロファージの前身)等において発現が見られるタンパク質です. リューマチや移植拒絶反応など,様々な炎症症状を呈した組織血清中において, これらタンパク質の濃度が上昇することが知られており, 「炎症」の調節に重要な役割を果たすと考えられているタンパク質です. これら2つのタンパク質の関わる詳細な分子機構は未だ明らかにはされていませんが, 炎症組織内血管内皮細胞表面への好中球の接着にMRP14が関与していることが明らかになるなど, その機能の重要性については以前にも増して注目を集めているタンパク質です.