北海道大学大学院先端生命科学研究院 細胞ダイナミクス科学研究室(第3研究室)先端融合科学研究部門 

研究「集団で動く細胞(2)食道がん細胞の『チームワーク』を壊そう!」

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集団で動き回るがんを止めるには?

 先ほどは上皮細胞が協調して動くという研究でしたが、今度はがん細胞が一緒に動くというお話です。

がん細胞は破壊行動をする時、まとまって行動している

res_4_01 がん細胞は、正常な細胞の設計図であるDNAが傷ついてしまって、車でいうと三角形のタイヤが作られたり、タイヤが5、6個作られてしまうようになった状態です。がん細胞はひたすら増え続けます。がん細胞の塊を腫瘍といいますが、これだけならそれほど悪さはしません。しかし、腫瘍から周りの組織にがん細胞が浸潤(しんじゅん:染み込み広がること)すると、肺、肝臓、骨など、色々な場所で新しい腫瘍を作ることになります。これを転移といい、個体の命を脅かします。転移によって、がん患者の約90パーセントの方が亡くなってしまいます。

 第3研究室では、浸潤という現象に着目しました。ヒトの正常な臓器組織と、がん化した組織を比較しますと、正常なものは個々の組織に境界線があります。ですが、がん化してしまうと、正常なラインを突き破ってがん細胞たちが組織の外に広がっています。私たちが注目したのは、細胞たちが皆で一緒になって移動していること、手をつなぐように、集団で浸潤していることです。これは集団浸潤と呼ばれています。

がんの集団行動を追って

 がん細胞はどうやって皆でそろって行動し、集団浸潤しているのかという点を調べたかったので、食道がんの細胞を使って実験を行いました。それもなるべく生体内に近い環境を再現したかったので、先にお話した研究と同じように、コラーゲンゲルの中で細胞を培養しました。

 そこで撮った動画がこちらです。がん細胞が、おそらく30から50個ぐらい集まっている集団ですが、これがどうなったかといいますと、周りのゲルをちょっとずつ溶かしながら動いて行きました。このように、培養シャーレの中でがん細胞の集団浸潤を再現、観察するのに成功しています。これが体の中で動くことがあるかと思うと、怖いですよね。

 次に、集団浸潤の仕組みを探るために、インテグリンβ1 (ベータワン)という細胞の運動に関わるタンパク質の機能を止める実験を行いました。
インテグリンβ1の働きを止めるAIIB2(エーツービーツー)という薬を入れますと、食道がん細胞の集団の動きが止まってバラバラになることが分かりました。薬を洗い流すと、また集団で動き出しました。洗い流す時は、薬を入れた培養液を全部取り除いてから新しい培養液を入れまして、水槽の水を取り替える感じです。
この結果から、がん細胞の集団浸潤にはインテグリンβ1というタンパク質が重要であることが分かりました。

 今後は、このインテグリンβ1を研究のとっかかりとして、もっと詳しく調べて行きたいと思っています。ありがとうございました。

研究「細胞集団と培養基質とが織りなす立体的なカタチ」を読む

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