DNA複製と細胞分裂の分子機構

 生物が生存するためには,細胞は分裂して増殖しなければなりません。その分裂は生物の生命活動の計画や設計を記録したDNAの複製を始め、1つの細胞が2個の子とも細胞に分かれる。我々は、真核、および原核生物のDNA複製と細胞分裂の分子機構を構造生物学の手法を用いて解析します。

DNA複製

すべての生物にとってDNAの複製は遺伝情報を伝達する上で必須のプロセスです。複製を開始するためには、安定なDNAの二本鎖構造をDNAヘリカーゼによってほどく必要があり、真核生物においては、MCM2-7複合体とCdc45、GINSとで形成される活性型DNAヘリカーゼCMG複合体がその働きを担っています。CMG複合体の形成は、多数の複製開始因子が関与する複雑な機構によって制御されており、DNA上に複数存在する複製開始点から異なるタイミングで、細胞周期にただ一度だけDNA複製が開始されます。これにより、世代間のゲノムの完全性が維持されています。我々はX線構造解析により、Sld3を中心とする、活性型DNAヘリカーゼCMG複合体の形成機構を明らかにします。



細胞分裂

原核生物の細胞分裂には,DNAが複製した後に細胞中央の分裂部位にタンパク質FtsZ がGTPと結合して自己重合を行い,真核生物のチューブリンに似たZリングと呼ばれる収縮性の分子リングを形成します。細胞分裂の際,FtsZ はGTPの加水分解によって,直線形から湾曲形へと重合構造の変化を引き起し,Zリングが収縮します。このことによって,細胞がくびれ,2つ細胞に分裂します。また、バクテリアは細胞のまん中にある正常な分裂部位で細胞分裂が行われるための調節機構を有し、大腸菌ではminBオペロン上にあるMinC、MinD、MinEがこの調節機構を構成しています。FtsZは細菌が共通して持つタンパク質であり、細菌の生存にとって必須です。重合したFtsZの構造変化機構の解明は、生命現象に関連して極めて興味深いものです。私たちは、細胞分裂のメカニズムについて、構造生物学的な研究を行ってます。既に、院内感染の原因となるメチシリン耐性黄色ブトウ球菌Staphylococcus aureus由来のFtsZ、及び古細菌のMinDなどの機能・構造の相関を明らかにしつつあります。