DNA結合蛋白質の構造解明



転写因子

肝特異的転写因子HNF-6
肝臓特異的転写因子HNF-6は,膵臓や肝臓など多様な組織の発生を制御するとともに, さまざまな肝遺伝子の発現制御を行う.この転写因子は,異なるコアクチベーターと 相互作用する2種類のDNA結合および転写活性化様式をもっており,ターゲット遺伝子 の種類によって変化する.本研究では,HNF-6αのDNA結合ドメインとTTRプロモーター のHNF-6結合サイトとの複合体の結晶構造から,このタンパク質のDNA認識機構を明ら かにし、ターゲット遺伝子の転写活性の可変性に向けた戦略を提案する.


正の転写調節因子OmpR
大腸菌などの原核生物は,外界の環境の変化を感知する環境センサー蛋白質と,それ からの情報を(燐酸化の形で)受けて最終的なエフェクター分子に伝える応答レギュ レーター蛋白質の2成分からなるシグナル伝達システムを備えている.レギュレー ター蛋白質の多くは,DNAの発現調節にかかわる転写因子である.対処すべき情報 に応じて,転写因子が結合すべきDNA上の箇所は異なっており,もちろん,発現し てくるエフェクター蛋白質は全く異なっている.しかし,対処すべき情報の違いにも かかわらず,レギュレーター蛋白質は,全体として相同な構造を持っている.すなわ ち,情報を検知するセンサー部と,最後に発現してくるエフェクター蛋白質は異なる けれども中間の部分については共通なシステムである.大腸菌ゲノムを調べると,実 に15種類ものレギュレーター蛋白質が類似した構造をとっていることがわかる.こ れらの蛋白質は,それぞれが異なる環境情報に対処するように応答レギュレーター分 子として設計されている.その中の一つ,浸透圧制御にかかわるOmpR蛋白質は, 最も早くから2成分系の研究に使われてきた.その名をとって,これらのレギュレー ター蛋白質ファミリーをOmpRファミリーと呼ぶ.OmpRは239残基からなる 蛋白質で,N末側の半分に燐酸化ドメインをC末側の半分にDNA結合ドメインを 持っている.これまでに、私達は,OmpRのDNA結合ドメインの立体構造解析を 行なった.この解析により,OmpRファミリー蛋白質は,共通の疎水性コアを持 ち,類似した立体構造とDNA結合様式を持ちながら,ヘリックスターンヘリックス モチーフが変化した柔軟性のあるループ部分でRNAポリメラーゼに対して多様な結 合をしていると考えられるようになった.この多様性は,RNAポリメラーゼとプロ モーター相互作用の多様性と密接に関係していると推定される.



DNA結合蛋白質

DNA結合蛋白質HU
真核生物では,DNAはヒストン8量体をコアーとしてその周りに1.75回巻きつい てヌクレオソームと呼ばれる構造体を形成する.一方,ヒストンを持たない原核生物 においてDNAと結合して核様体を形成する蛋白質はヒストン様蛋白質と呼ばれてい る.1975年Yaniv とGrosにより大腸菌のU株より精製され,ヒストンに類似した 性質を示すことから,HUと命名された耐熱性のDNA結合蛋白質HUは典型的なヒ ストン様蛋白質である.この蛋白質は通常2量体として存在しており,サブユニット あたりの残基数は90で,細胞あたりのコピー数は2量体にして約30,000個と見積も られている.1本鎖,2本鎖のDNAに対して塩基非特異的に結合する他,rRNA にも結合することが知られている.HU蛋白質は固い2量体コアーと1対の長い腕を 持っており,そのフレキシブルな腕でDNAを抱え込むようにして結合するものと考 えられる.この蛋白質が結合することでDNAは鋭く折れ曲がる.DNAを折り曲げ るこの性質は,原核生物のDNAをコンパクトに折りたたむことに,あるいは,DN A上で働くさまざまな蛋白質の働きを補助するのに役立っている.