大腸菌などの原核生物は,外界の環境の変化を感知する環境センサータンパク質と,それ
からの情報を(リン酸化の形で)受けて最終的なエフェクター分子に伝える応答レギュ
レータータンパク質の2成分からなるシグナル伝達システムを備えている.レギュレータ
ータンパク質の多くは,DNAの発現調節にかかわる転写因子である.対処すべき情報に
応じて,転写因子が結合すべきDNA上の箇所は異なっており,もちろん,発現して
くるエフェクタータンパク質は全く異なっている.しかし,対処すべき情報の違いにもか
かわらず,レギュレータータンパク質は,全体として相同な構造を持っている.すなわち,
情報を検知するセンサー部と,最後に発現してくるエフェクタータンパク質は異なるけれ
ども中間の部分については共通なシステムである.大腸菌ゲノムを調べると,実に15
種類ものレギュレータータンパク質が類似した構造をとっていることがわかる.これらの
タンパク質は,それぞれが異なる環境情報に対処するように応答レギュレーター分子とし
て設計されている.その中の一つ,浸透圧制御にかかわるOmpRタンパク質は,最も早くか
ら2成分系の研究に使われてきた.その名をとって,これらのレギュレータータンパク質フ
ァミリーをOmpRファミリーと呼ぶ.OmpRは239残基からなる タンパク質で,N末側の半分に
リン酸化ドメインをC末側の半分にDNA結合ドメインをもっている.これまでに、私達は,
OmpRのDNA結合ドメインの立体構造解析を行なった.この解析により,OmpRファミリー
タンパク質は,共通の疎水性コアをもち,類似した立体構造とDNA結合様式をもちながら,
helix-turn-helixモチーフが変化した柔軟性のあるループ部分でRNAポリメラーゼに対
して多様な結合をしていると考えられるようになった.この多様性は,RNAポリメラー
ゼとプロモーター相互作用の多様性と密接に関係していると推定される.
References