創薬・産業利用への応用研究,その他


新規炭素―炭素結合形成酵素

炭素―炭素間の結合形成をコントロールすることは,有機化学合成上の大きなテーマである. それは,有用な化学物質を合成するうえで,炭素―炭素結合形成は必要不可欠なステップだからである. 化学的な炭素―炭素結合形成反応は,ほとんどの場合において副生成物を生じ, また高温,高圧などの条件を要求することなどから,系の制御が難しい. 天然触媒である酵素は,こうした難題を解決する一つの鍵となる. 最近の遺伝子工学技術の発達により, 酵素触媒の大量調製や残基変異による触媒能操作などが容易に行えるようになってきた. こうした技術を応用し,酵素反応における多段階の複雑な反応過程を理解することは, より有用かつ効率的な触媒を創製するという究極目標につながるものである. この目的にとって,酵素の立体構造を知ることは欠かすことができない.

マクロフォミン酸合成酵素

ツユクサの葉から単離された糸状菌は, MPS(macrophomate synthase)を用いて2-ピロンから安息香酸誘導体マクロフォミン酸への珍しい変換を行い, その過程において炭素―炭素間協奏的付加反応を経由する. 具体的にMPSは,オキザロ酢酸が脱炭酸して得られるエノラートと,2-ピロンが反応炭素―炭素結合を形成した後, 一旦,架橋型中間体を形成し,次いでアリル転移,ラクトンへの再環化によってマクロフォミン酸を生成する, 五段階もの反応を触媒する.我々の研究室はMPSを分解能1.6Åで構造解析することに成功した. 本研究では,構造をもとにこの酵素触媒について,反応メカニズムを解明し,新たな工業的利用を目指している.

PLP結合酵素

LP酵素は,ビタミンB6酵素とも呼ばれ,生体内でのアミノ酸代謝に関わる多種多様な反応を触媒する. PLPは活性部位のLys残基と結合しており,そこに基質がくると,PLPと基質の間に結合が形成される. その後の反応は,基質のCα周りの3つの結合のうち,どれが切断されるかによって決定される. これらの反応はPLP関与の全ての酵素に共通する. 1966年,Dunathanは,このとき切断される結合は,PLPのピリジン環に対して垂直な方向の結合であるとする 「仮説」を提出している. すなわち,PLP酵素の反応性は活性部位周辺の立体構造に決定されると言い換えることができる. この仮説を完全に証明するために数々の実験が行われているが,立体構造解析は最も優れた手段の一つである.

ACCデアミネース(ACCD)

ACC(1-アミノシクロプロパン-1-カルボキシレート)デアミネースは, 環状アミノ酸ACCを脱アミノ化し,α-ケト酪酸とアンモニアに分解する酵素で, ピリドキサール5'リン酸(PLP)を補酵素とするPLP酵素の一つである. PLP酵素による脱アミノ化反応の場合,アミノ酸のCα-α水素間の結合が切断されることから脱アミノ化反応が進行する. しかし,ACCデアミネースによって脱アミノ化されるACCは,他のアミノ酸と異なり, 環状構造を形成しているため,α水素をもたない. つまり,ACCデアミネースによって触媒される脱アミノ化反応は, 他のPLP酵素による脱アミノ化とは異なる機構で進行していると考えられる. したがって,我々はACCデアミネースの立体構造から,反応機構を解明することによって, Dunathanの仮説を証明することができると考えている.

現在,以下の研究が行われている.
酵母由来ACCデアミネースの構造解析
・酵母由来ACCデアミネースの変異体の構造解析
・ACCデアミネース類似タンパク質の構造解析