細胞ダイナミクス科学研究室の目指す教育
芳賀教授インタビュー「第3研のポリシーとは」
研究能力を育てる
教育の観点で、お話させていただければと思います。ひとつめの目標は研究能力の向上です。学生生活Q&Aにも書いてありますが、第3研究室では、指導教員が直接一対一で指導します。例えば、4年生の指導を博士課程の大学院生やポスドクに任せることはしません。
ラボのスケジュール表を見ると、PRという文字があちこちに書かれているのですが、これは「教授と二人で研究の打ち合わせします」という時間を表します。Progress Report(進捗報告)の略です。打合せの日時は学生さん自身に決めてもらっています。なので、頻繁に打ち合わせしたい人はどんどん予約を入れますし、のんびりやりたい人は一ヶ月くらい間隔が空いたりすることもあるのですが、それも学生さんにお任せしています。
また、研究テーマも複数人のチームではなく、一人一人個別のテーマとして研究を進めてもらいます。得られた成果は学生さんの研究業績として第一著者として論文を書いてもらいます。このように、一対一で、学生さんのペースで研究を進めるというのが、ひとつの特徴です。
プレゼンテーション能力を磨く
ふたつめの目標はプレゼンテーション技術の習得です。研究というのは、実験をして結果を出すのも大事なのですが、それと同じくらい結果を人に伝えるというのも大切だと思っています。なので、伝えるという能力をトレーニングするために、プレゼンテーションの技術、つまり、どのように話せば相手に伝わるかということや、スライド作りの指導に力を入れています。
さらに、プレゼンテーションの技術を身につけるには外に行って武者修行をするのが一番だと思っています。なので、学会発表を積極的に応援しています。例えば、4年生でも「学会に行きたい」と言えば、研究室として積極的に応援します。宿泊費や交通費などの経費は研究室が面倒をみてあげて、発表してもらいます。
――それはすごいですね。学生は在籍中、何回くらい発表するんですか?
学生さんによりますが、例えば、修士課程を修了するまでに10回以上発表した学生さんもいました。もちろん、私からは発表を強制することはしません。とにかく発表したい人にはどんどんチャンスを与えます。ただし、発表できる研究成果があることが前提ですが。今年度(2014年度)ですと、9月に横浜で開催された日本癌学会に学部4年生の温田君と修士2年生の遠藤君が発表しました。これがその時、学会発表の後、横浜の中華街で一緒に飲んだ時の写真です(笑)。
それから、学部と大学院には論文講読という必修単位があります。学術論文を読んで、その内容を人前で紹介することが課せられています。学部4年生から修士、博士まで全ての学年にある単位です。卒業研究と同じぐらい大事な単位でして、学術論文を読んで、それを人前で説明するということができないと卒業できないわけです。第3研究室では、医学部、遺制研などの5つぐらいの研究室と合同で発表の場を用意しています。発表は任意なのですが、志願した学生さんにとっては大きな経験になると思います。参加人数が多い上に、内輪だけではなくて、他の研究室の先生方も来ますから。でも、そういう場面を経ないと人前で喋る訓練が身につかないと思うんです。という訳で、なるべく人前に出て話す、という経験を学生さんに積んでもらっています。
人を育てるということ
卒業論文や修士論文は毎年2月に審査会があります。学科、コース全体で審査会がありまして、そこで優秀な発表に対しては優秀発表賞という賞が教員の投票で決まります。第3研究室では今のところ、7年連続で受賞しています(2014年度現在)。自慢話に聞こえると恐縮なのですが…(笑)。また、国際会議や研究会でも賞をもらうことがあります。今年度は、博士課程の今井さんが国際会議でベストポスターアワードという賞を受賞しました。
ここで私が一番伝えたいのは、研究室にはいろいろな運営スタイルがあるのですが、私はつねに、たとえ時間や手間がかかっても学生さんと一緒に研究を進めるというスタンスに徹することにしています。これによって、研究室から出る論文のスピードが下がるかもしれませんが、それよりも学生さんの成長を重視しています。なので、学生さんがプレゼンテーションの能力を習得して、それが何かの形で表彰されることの方が、私にはすごい論文が出るよりずっと嬉しくて、研究と同じくらい教育に力を入れたいと思って研究室を運営しています。
――ひとりひとりを半ば研究のパートナーとして、教えながら育てるという感じですね。
そうですね。大学の使命というのは、そこにあるんじゃないかと私は考えています。大学というのは、すごい論文を出すのも大事なんですけれども、それと同じくらい大切なのは、学生さんが様々な能力を身につけて巣立ち、社会で活躍できる、そういう人材を育てることではないかと思って、学生さんの指導をさせてもらっています。
一生モノの能力とは?
学生さんには一生モノの能力を身につけてほしいと思っています。多くの学生さんは修士課程を修了するまでの3年間を研究室で過ごして、そのあと様々な企業で活躍することになるのですが、学生時代の研究テーマをそのまま企業でやる人は限りなくゼロで、ほとんどの場合、全然違う内容の仕事をやっています。たとえ研究職に就いたとしても、違う研究テーマをやっています。なので、研究テーマそのものは、別に一生のお付き合いじゃないんです。
でも例えば、自分の考えをまとめて人前で話すことや、スムーズな交渉の仕方というのは、将来どの分野に行っても必ず共通ですし、日常的には明るく笑顔で挨拶するというようなことも、どこの世界に行ってもコミュニケーションの基本なので、むしろそういうことに力点を置いて、一生どこでも通用するような能力を身につけてほしいと思っています。それが、私の指導方針です。
ラボの生活
学生さんの日々の生活ですが、一応朝10時ころには来てくださいね、とは言っていますが、強制力のあるコアタイムは設けていません。研究室に配属される学生さんは全員成人した大人なので、自分のことは自分でマネージメントしてほしいと思っています。そもそも授業料を払っているのは学生さん側なので、つまり、自分の時間とお金をどう使うかは、学生さんが自分で決めるべきだと思っています。朝から晩まで好きなだけ研究しても構いませんですし、逆に、研究に割く時間が少なくてもそれが本人の判断であれば構いません、というのが私の考えです。
ただし、週1回、研究室全体でお互いの研究の進捗状況を報告するというイベントがあります。毎週2人ずつ発表しますので、おおむね2ヶ月に1回ぐらいのペースで当番が回ってきます。そのため、自分で自由に時間を管理してください、教授との打ち合わせも好きなペースでいいですよ、とは伝えていますが、うっかり2ヶ月間何にもしていないと大変なことになります(笑)。
――過去に、大変なことになった人はいましたか?(笑)
それが、いないんですよね。皆さん真面目だなぁって、いつも感心しています。それはともかく、その週1回の研究室全体のイベントだけが縛りでして、後の時間をどう過ごすかは自由になっています。
他には、研究室のイベントを行うこともあります。みんなで運動したりとか、歓迎会、忘年会などですね。リレーマラソン大会に出場した年もありました。私は役立たずで、皆さんに迷惑をかけてしまいましたが(笑)。
それぞれの進路
進路に関してですが、第3研究室の場合、4年生のほぼ全員が修士課程に進学します。修士課程を修了した後の就職先で一番多いのは民間企業です。博士課程に進学する学生さんは2年に1人ずつくらいです。あとは、高校の教諭、公務員が少々という感じです。民間企業の業種ですが、基本にはメーカーが多いです。ただ、業界がずいぶん多岐にわたっています。食品関係から、医薬、化粧品、材料関係、タイヤ、家電メーカーなど、色々です。
――あらゆる分野で、研究というのは関わって来ますよね。
そうですね。本当にいろんな会社で皆さん活躍しています。それから、博士課程まで進学すると、博士号を取得した後は、民間企業に加えて、大学の教員になる人とか、海外の博士研究員になる人がいます。第3研究室の助教の水谷先生は、私が最初に博士課程として指導した学生なんですよ。最初に博士号を取得したという意味で、一番弟子なんです。
学生さんの就職活動については、積極的に支援しています。私は学生さんに「就活に必要な時間は必要なだけ確保してください」と伝えています。また、エントリーシートの指導や面接のプレゼンの練習も、これは本人が希望すればですが、いくらでもお付き合いします。とにかく就職活動は、学生さんの人生を左右する大事なイベントなので、全力で頑張って欲しいと思っています。
以上、教育方針について、お話させていただきました。ありがとうございました。