tRNAジヒドロウリジン合成酵素の反応機構の解明

Summary

 ジヒドロウリジン(D)はさまざまな生物のtRNAに広く存在する修飾である. tRNAのクローバーリーフ構造の左側のループはD-ループと呼ばれるが,これはほぼすべてのtRNAでこのループ中にD修飾が導入されているためである. ジヒドロウリジン合成酵素(Dus)は,FMNとNADPHを補因子として利用してウリジン塩基を還元することにより,tRNAにD修飾を導入する酵素であるが, D以外の修飾を受けたtRNAだけを特異的に認識するという興味深い特性をもつ. 本研究では,Thermus thermophilus由来のDusとtRNAの複合体,およびtRNA断片との複合体の結晶構造をそれぞれ,3.51 Å,および1.95 Åの分解能で決定した.

 Dus-tRNA複合体において,DusはtRNAのD-アームと相互作用し,また,修飾塩基であるU20は活性ポケットに深く入り込み,FMNとスタッキング相互作用を形成していた(図1).

図1: Dus-tRNA複合体の構造

Dus-tRNA断片複合体では,DusのCys93の硫黄原子とU20のC5が共有結合しているのが確認された(図2).

図2: Dus-tRNA断片複合体中で見られた,Cys93とU20間の共有結合

また,塩基と活性ポケットを形成する残基間には大きなスペースが存在し,有意な電子密度がこの領域を占有していた(図3).

図3: 塩基と周辺の残基の間に見られた分子の電子密度

周辺に存在する残基はいずれも,完全に保存された残基であり,また,これらの残基を置換することにより,tRNA結合が大きく減少することが,電気泳動により確認されたことから(図4),この分子が複合体形成に強く関与していることが示された.

図4: 活性部位周辺の変異体のtRNA結合能の比較

以上の結果をもとに,Dusが,(1)適切なD-ループ/T—ループ相互作用により安定化されたtRNAの肩領域を認識して結合した後,(2)活性部位において新規な補因子を用いて間接的に修飾塩基を認識するという,2段階の機構により,D以外の修飾を受けた成熟したtRNAのみを認識することが提案された.

References