GatCABの反応機構 - 2つの反応を結ぶアンモニアチャネル -

Summary

 mRNAに転写された遺伝情報をもとに行う翻訳反応では,はじめに20種のアミノ酸が対応するtRNAへ正確に付加される.この反応は,アミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)によって触媒される.生体中には20種のアミノ酸に対応した20種類のaaRSが存在しており,この付加反応の対合性を厳密に制御している.この厳密な対合は遺伝情報の正確な翻訳のための前提条件である. しかし,真正細菌の多くはGln-tRNAGlnを合成するGlnRSを欠いているため,これらの生物では認識の緩いGluRSによってグルタミン酸とtRNAGln から,誤った対合産物Glu-tRNAGln がつくられ,次いでGatCABがこれを校正するという二段階の反応を経てGln-tRNAGlnがつくられる.

 GatCABは, 誤って対合したGlu-tRNAGlnを正しく識別し,(1) ATPを用いたリン酸化によるGlu-tRNAGlnの活性化,(2) グルタミンの加水分解からアンモニアを生成,(3) そのアンモニアを用い,活性化されたGlu-tRNAGlnをGln-tRNAGlnに校正するアミド基転移反応の3種類の反応を行う.GatCABはこれらの反応を正確に制御している. また,GatCABは黄色ブドウ球菌,緑膿菌,ピロリ菌などの病原菌に広く存在し,かつ必須酵素であることから,有効な抗生物質のターゲットとしても注目されている.

 本研究では,黄色ブドウ球菌由来GatCABの立体構造を世界で初めて解析し,各反応の基質認識機構,また分子内部のアンモニアチャネルを用いた制御機構などを分子レベルで明らかにすることに成功した.


翻訳反応に必須なGln-tRNAGlnの合成には, 直接合成, 間接合成の2種類の経路が存在する.

GatCABの全体構造

GatA アンモニアチャンネル GatB

GatA

アンモニア合成の基質であるグルタミンはGatA分子の中心に存在した.グルタミンはS178と共有結合をしており,反応中間体がトラップされたものと考えられた.このことから,未知の制御機構によりグルタミン加水分解反応が制御されていることが示唆された.

アンモニアチャンネル

GatAで作られたアンモニアはGatBで次の反応に使われるが,酵素分子内部には,その間をつなぐ長いチャネルが存在していた.このチャネルは親水性のアミノ酸により構成されていることから,その他のアンモニアチャネルと異なる新規のチャネルであることが明らかになった.また,このチャネルの開閉により反応を同調させていることが示唆された.

GatB

GatBでは, Glu-tRNAGlnのリン酸化が行われる.反応に用いられるATPとの複合体の構造解析から,GatBに存在する疎水性ポケットにATPが結合することが明らかになった.