植物由来リボヌクレアーゼ(RNase)の分子機構の解明     

植物は,動物に存在するような免疫系をもっていない.よって植物は育成環境の変化(病原菌の感染や傷害、植物ホルモンを含めた化学物質や重金属の適用,オゾンなどの大気汚染物質,紫外線や厳しい生育環境)に基づく様々なストレスを受けた場合,自己防衛のため植物特有の生体防御反応を起こす。この過程で誘導される蛋白質群を生体防御蛋白質(defense-related proteins)と呼ぶ.この研究では、RNAのホスホジエステル結合を加水分解するリボヌクレアーゼ(RNase)のうち、S-like RNaseと呼ばれる蛋白質の構造解析により,その生体防御蛋白質としての分子機構を解明かすことを目的としている.


RNase MC1

植物由来のRNaseはその機能やアミノ酸配列の類似性により,S-RNase,S-like RNaseの2つのサブグループに大分される。両者のアミノ酸配列には類似性が見られるが、その機能は全く異なり、前者は配偶体型自己不和合性に関与する糖タンパク質で、自己由来のRNAに作用することで花粉管伸長を阻害する。本研究で取り扱っている後者は、乾燥、老化、傷害、病原体の感染等のストレス、種子の発芽や成熟、リン酸飢餓等の環境変化に応答して植物体内に誘導される生体防御因子であることが提唱されている。
ニガウリ(Momordica charantia)由来のRNase MC1は、種子の発芽や成熟の際に植物種子内に誘導される酵素で、他の植物由来RNaseとは異なりRNA鎖中のウラシル塩基(3'側)のみを特異的に認識し、その一つ前(5'側)の塩基との間に存在するホスホジエステル結合を切断する。
現在までに、基質類似体として2',3'-uridine-monophosphate(UMP)を用いたMC1の1.48、1.77A複合体構造解析より、本酵素の塩基認識に関与する4つのアミノ酸残基を特定している。MC1は、Leu73、Phe80によるsandwich-stacking、ウラシル塩基のO4、N3原子とGln9、Asn71およびMC1主鎖により形成される水素結合によって4種類存在するRNAの塩基からウラシルのみを選択する。