補助事業番号  2018-100

補助事業名   平成30年度 糖鎖自動合成マイクロアレイシステムの開発 補助事業

補助事業者名  北海道大学 比能 洋

 

 

本研究にかかわる知財・発表論文等

(知財)

特願 2019-011457, 発明者:比能 洋, 出願人:北海道大学

「未修飾シアリル化複合糖質および糖ペプチドのリフレクトロンモードMALDI−TOFおよびTOF/TOF質量分析のためのアニリン誘導体/DHB/アルカリ金属マトリックス組成物」

北海道大学研究シーズ集 https://seeds.mcip.hokudai.ac.jp/jp/view/381/

 

(発表論文)

Hinou H,,* Kikuchi S., Ochi R., Igarashi K., Takada W., Nishimura S.-I. “Synthetic glycopeptides reveal specific binding pattern and conformational change at O-mannosylated position of α-dystroglycan by POMGnT1 catalyzed GlcNAc modificationBioorganic&Medicinal Chemistry, 27, 2822-2831 (2019).

DOI: org/10.1016/j.bmc.2019.05.008

 

Hinou H.*Aniline Derivative/DHB/Alkali Metal Matrices for Reflectron Mode MALDI-TOF and TOF/TOF MS Analysis of Unmodified Sialylated Oligosaccharides and GlycopeptidesInt. J. Mass Specytom., 443, 109-115 (2019).

DOI: org/10.1016/j.ijms.2019.06.006

 

 

(外部発表)

1)       Hiroshi HinouNovel matrix system for reflectron mode MALDI-TOF and TOF/TOF MS analysis of unmodified sialylated oligosaccharides and glycopeptides Japanese-American Symposium on Applied & Translational Glycosciences, ACS Fall 2019 National Meeting, San Diego, August 27th, 2019.

2)       比能 洋シアリル化糖鎖・複合糖質の直接MALDI-TOFMS解析法」日本化学会第85春季年会、名古屋、2019820.

 

研究内容

(1)小型・超小型マイクロアレイ観察装置の開発

マイクロアレイ上にマイクロピペッターによる分注操作により溶液交換やラベル化操作可能なマイクロ流路環境と、その操作中でも継続してマイクロアレイ観察が可能な光路環境を両立させることにより、代表者らが蓄積した糖鎖自動合成などの糖鎖修飾操作と通常のマイクロアレイ計測に必要な相互作用解析実験操作を同一環境にて実施可能なシステムの構築を行った。導電性シリコンゴム、マイクロ流路、高輝度LEDCADソフト、および3Dプリンタなどを組み合わせることにより観察装置を独自設計することにより、汎用性が高く、小型化可能な反応・相互作用実験用流路と計測・解析実験用光路を併せ持つシステムの構築に成功した。産業用カメラや、天体観測用カメラを使用し、オープンソースソフトで解析しながら装置設計を試行錯誤した結果、ノートパソコンおよびスマートフォン等のモバイル機器からの電源供給で計測・解析が可能な小型装置の作成に成功した。また、反応液流路を最適化することにより、計測を止めることなく、明環境下、計測環境の乾燥を伴わずに簡単なピペット操作にて任意のタイミングで任意の反応液をマイクロアレイ上に供給できるシステムの構築に成功した。さらに、本システムを用いることにより、マイクロアレイ上の糖鎖および複合糖質(糖ペプチド)糖鎖の品質管理をラベル化レクチンにて実施可能であることを実証した。

 

試作した独立電源型小型マイクロアレイ観察装置

 

(2)マイクロアレイ上の糖鎖・糖ペプチドの品質管理に必要な迅速高感度構造解析技術の開発

レクチンは生体内のような複雑系環境において糖鎖構造を解析するうえで有用な構造情報を与える有用なプローブ分子であるが、タンパク質の高次構造をその相互作用に利用しているため、その周辺環境に影響を受ける可能性がある。申請者はその糖鎖合成遺伝子の変異による機能異常が疾患に関与していることが報告されているO-マンノース型糖鎖を有する糖ペプチド類の糖鎖構造変化をレクチンにより追跡する研究を先行研究で実施しており、(1)の実験においてもこのO-マンノース型糖鎖を利用したところ、先行研究と同様の糖鎖構造―相互作用パターンを示した。しかし、この相互作用パターンのうち、特にシアリル化された糖鎖とレクチンの相互作用パターンでは試験した既知のシアル酸特異的結合レクチン(SSAおよびMAM)は結合せず、シアル酸とN-アセチルグルコサミンの双方を認識することで知られるコムギ由来レクチン(WGA)のみがシアリル化糖鎖結合性を示すことを再現することに成功した。この既知の相互作用パターンとの相違により査読者の理解が得られず、この研究の論文化が遅れていたが、この相互作用実験の再現に力を得て論文を再構成し投稿したところ、無事に採択された。代表者らは標準合成サンプルを用いて基礎データを取得しているため、その構造活性相関には自信を持っているが、この経験は蛍光強度の観測でその構造データを証明するという本課題の根幹が外部評価の際に疑われる可能性を示すものであり、これを実証できる他の分析手段と組み合わせる必要があった。しかし、マイクロアレイで必要なサンプル量は10-1410-19 molという極めて微量であり、そのレベルで構造解析が可能な分析手段は質量分析に限られた。しかし、今回問題となったシアル酸を含有する糖鎖はイオン化の際にシアル酸の脱離を伴いやすいことから、これまで糖鎖の質量分析の世界ではシアル酸のカルボン酸を化学修飾しその脱離能を低減させてから計測することが常識となっていた。しかし、反応追跡法として使用する場合、化学修飾と精製工程を挟むことは本末転倒であり、その化学修飾を経ることなく構造解析(品質管理)が必要な方法論の開発が必要であった。そこで、我々のマイクロアレイ解析技術と同様にピペット操作のみで多数のサンプルや反応点の計測が可能なマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI-TOFMSに焦点を絞り、その際に使用するマトリックスと呼ばれる添加剤の改良を行った。近年、MALDI-TOFMSの新規マトリックスとして従来使用されている酸性マトリックスに有機塩基を添加することにより、様々なイオン性液体が発見され、特に糖鎖解析において数桁の感度向上を示すものも報告されていた。そこで、報告されている糖鎖解析用液体マトリックスを全て調査したが、遊離のシアル酸を分解することなく計測可能なものは見出すことができなかった。そこで、さらに金属添加材に着目し、種々検討した結果、シアル酸の脱離を伴うことなく、従来のマトリックスよ100倍以上の感度でシアリル化糖鎖をイオン化できるマトリックスの発見に成功した。

 

 

 

未修飾シアリル化糖鎖の直接解析のために開発した新規マトリックスの特徴

 

以上、当初目的とした糖鎖自動合成操作が実施可能なマイクロアレイ観測装置に加え、作成した糖鎖・複合糖質の多元的構造解析を可能とする質量分析技術の開発に成功した。これらの技術は今後の糖鎖・複合糖質マイクロアレイを含む糖鎖機能解析研究の基盤技術として基礎研究に加え医療などへの応用分野にも積極的に利用されることが期待される成果である。

 

 

事業内容についての問い合わせ先

所属機関名: 北海道大学 (ホッカイドウダイガク)

住   所: 〒001-0021

札幌市北区北21条西11丁目

担 当 者: 教授  比能 洋(ヒノウヒロシ)

担当部署: 大学院先端生命科学研究院

E-mail: hinou@sci.hokudai.ac.jp

URL: http://altair.sci.hokudai.ac.jp/g4/