北海道大学大学院先端生命科学研究院 ソフト&ウェットマター研究室
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高温で瞬時に硬くなるゲル

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高温で瞬時に硬くなるゲル


 

低温のときは柔らかく、高温で瞬時に1000倍以上硬くなるゲルを開発しました[1]!事故やスポーツのアクシデントから身体を守るスマートプロテクターへの応用が期待されています!

目次 (項目をクリックすると内容のトップにジャンプします)

  1. 1. 一般的な高分子材料の熱応答
  2. 2. 好熱菌のタンパク質から着想を得た強い熱相分離
  3. 3. 熱で瞬時に硬くなるハイドロゲル
  4. 4. 摩擦熱に応答するプロテクターと酷暑対策の吸熱材への応用
  5. 参考文献

1. 一般的な高分子材料の熱応答

ペットボトルやビニール袋などの身の回りのプラスチック製品を加熱すると溶けたり柔らかくなるように、一般的に高分子材料は低温で硬く、高温で柔らかくなることが常識です。柔らかくよく伸びる状態と、硬くほとんど変形できない状態は、それぞれ「ゴム状態、ガラス状態」と言い、その転移温度はガラス転移温度(Tg)と呼ばれます。図1は、ある温度域における高分子の弾性率(硬さ)を示したグラフです[2]。温度を上げていくとTgを境に弾性率がおおよそ3桁降下しており、プラスチックが柔らかくなることに対応しています。一般的に、この3桁の硬さ変化は高分子の化学種にはほとんど依存せず、高分子固有の性質と言えます。このような高温で柔らかくなる高分子の性質は、プラスチック製品の加工プロセスには非常に重要な反面、一部の応用では課題となっていました。

Modulus-Temperature

2. 好熱菌のタンパク質から着想を得た強い熱相分離

高分子の普遍的な性質とは逆に、「温度の上昇とともにゴム状態からガラス状態へ変化」する材料を実現するために、私たちは高温で相分離を示すハイドロゲルに着目しました。相分離とは、「均一な一相の物質が二相以上に分かれる現象」のことで、高分子ゲルでは、水と高分子が一様に分布している状態から、温度を上げることで高分子は高分子同士、水は水同士に集まった二相に分かれる現象のことを言います[3]。ゲルが相分離すると、高分子が濃厚な相が局所的に形成され、この部分では含水率が下がるためゲルが硬くなります。これまでにも,高温で相分離を示す高分子ゲルは多く報告されていますが,高分子濃厚相がガラス化するほどの強い相分離は達成されていませんでした。そこで私たちは、強い相分離を達成するために好熱菌のタンパク質の構造に着目しました(図2)。好熱菌は、温泉源や海底熱水鉱床などに生息する高温環境に適応した生物の一種で,最高で120℃の環境でも活動できます。好熱菌を構成するタンパク質は、人間のような常温環境に生きる生物のものと比較して,多くのイオン結合部位や疎水性相互作用部位を有するため,高温でも変性しないようになっています[4]。特に,イオン結合の強度は疎水的な環境ほど強くなることが知られています[5]。この原理を利用し,相分離したゲルの高分子濃厚相にイオン結合が取り込まれるような分子を設計したところ,高温で濃厚相のガラス化に成功しました。これは「水分をたっぷり含んだ柔らかいお米が乾燥して硬くなる現象」がミクロスケールで起こっていると考えると想像しやすいです。

Thermophile

3. 熱で瞬時に硬くなるハイドロゲル

無毒で安価なポリアクリル酸と酢酸カルシウムから簡単に作製できる本高分子ゲルは、低温では透明で柔らかいゴム状態ですが、温度を上げると相分離してミクロスケールで局所的に高分子濃厚相と希薄相に分かれます(図3、動画1)。そのため、瞬時にゲルが白濁し極めて硬いガラス状態に変化します。厚さ1mm程度のシート状ゲルは低温では10kgの重りを持ち上げることはできませんが、高温の相分離後では持ち上げることが可能で、硬さの変化は最大で1,800倍に達します。これは柔らかい食用ゼリーが硬いプラスチックへ変化することに相当します。また、この温度応答は完全に可逆的のため、一度低温に温度を戻せば急激な硬化を何度でも繰り返し引き起こすことが可能です。さらに、ポリアクリル酸ゲルと酢酸カルシウムの濃度によって、硬くなる温度を40〜100℃の範囲でチューニング可能です。

Thermo-Stiffening

4. 摩擦熱に応答するプロテクターと酷暑対策の吸熱材への応用

高温で硬くなる性質を利用して、私たちは2つの実用的なデモンストレーションを行いました。一つは、交通事故やスポーツのアクシデントを想定した、摩擦熱で硬くなり身体や衣服を保護する熱応答型のスマートプロテクターです。本高分子ゲルとガラス繊維布を複合した材料を、時速80kmで5秒間荷重を掛けてアスファルト表面に押し付けて引きずったところ,摩擦熱で硬くなりほとんど壊れませんでした。(動画2、図4) もう一つは,熱吸収材としての応用です。本高分子ゲルは相分離時に大きな吸熱反応を伴うため、本高分子ゲルを貼った窓に対し熱光源から光を照射すると、相分離構造形成に熱の一部が消費されます。これにより、室内の温度上昇を本高分子ゲルがない状態と比べて15℃程度低く抑えることに成功したことから,室内の温度上昇を低減する省エネ型の空調システムへの応用が期待できます。 本高分子ゲルは、高分子固有の性質である昇温に伴う「ガラスーゴム転移」とは逆の「ゴムーガラス転移」を示す初めての例で,今後もこのような新規温度応答性高分子の基礎・応用研究に発展に貢献することが期待できます。また、安価な材料で簡単に作製できることから社会実装しやすいと考えられ、温度応答性スマート材料としての実用も期待されます。

Protector

参考文献

  1. T. Nonoyama, Y. W. Lee, K. Ota, K. Fujioka, W. Hong, J. P. Gong, Instant Thermal Switching from Soft Hydrogel to Rigid Plastics Inspired by Thermophile Proteins.Adv. Mater. 2019 in press.
  2. M. Rubinstein, R. H. Colby, Polymer Physics.Oxford University Press, Oxford, UK 2003
  3. K. Mochizuki, D. Ben-Amotz, Hydration-Shell Transformation of Thermosensitive Aqueous Polymers.J. Phys. Chem. Lett. 2017, 8, 1360.
  4. S. Basak, R. P. Nobrega, D. Tavella, L. M. Deveau, N. Koga, R. Tatsumi-Koga, D. Baker, F. Massi, C. R. Matthews, Networks of electrostatic and hydrophobic interactions modulate the complex folding free energy surface of a designed βα protein.Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2019, 116, 6806.
  5. P. Linse, V. Lobaskin, Electrostatic Attraction and Phase Separation in Solutions of Like-Charged Colloidal Particles.Phys. Rev. Lett. 1999, 83, 4208.
  6. D. R. King, T. L. Sun, Y. W. Huang, T. Kurokawa, T. Nonoyama, A. J. Crosby, J. P. Gong, Extremely tough composites from fabric reinforced polyampholyte hydrogels.Mater. Horiz. 2015, 2, 584.