北海道大学大学院先端生命科学研究院 先端融合科学研究部門 ソフト&ウェットマター研究室
Japanese
English
北大生になりたい方へ 高分子ゲル研究会

自己修復ゲル

北海道大学 ソフト&ウェットマター研究室~私たちの所属はこちら

傷が消えるゲル

 ハイドロゲルは、その生体組織に類似したソフトでウエットな性質により、生体材料として大きな注目を集めています。高強度・高靱性ダブルネットワークゲル(DNゲル)の発明は、初めて軟骨などの構造生体材料としてハイドロゲルの高いポテンシャルを示しました。
 高強度DNゲルの驚異的な靭性は、内部に壊れ易い「犠牲結合」によってもたらされることを解明しています。この「犠牲結合による高靭性化原理」が、他の高靭性ゲル材料を設計する上でも通用する普遍性を持っています(Gong, Soft Matter, 2010)。即ち、壊れやすい構造を犠牲結合として意図的にゲルに導入することによって、ゲルの靭性を高めることができます。犠牲結合となる構造は、DNゲルのような電解質高分子の化学結合の他、動的な化学結合、様々な物理結合(疎水結合、イオン結合、水素結合、配位結合など)から構成された分子集合体が考えられます。不可逆的な化学結合を用いた場合、一旦破壊されると回復しないため、材料が大変形すると、剛性が低くなります。それに対して、動的な化学結合や物理結合は可逆的であり、これらの結合を犠牲結合に用いる場合、ゲルは高靭性に加え、自己修復性や高い内部粘性による衝撃吸収性も併せ持つことが期待されます。 近年開発した両性高分子電解質(PA)ゲルは物理結合を可逆的な犠牲結合として使う例です。PAゲルは可逆的に破壊・回復できるイオン結合を有するために、高強度・高靱性に加えて、自己修復性を示します。また、PAゲルは、多様なイオンの組み合わせを使用することにより、材料の剛性や粘弾性など複数の力学的特性を広い範囲にわたって調整できる特徴を持ちます。

目次 (項目をクリックすると内容のトップにジャンプします)

  1. 高靱性と粘弾性
  2. 自己修復性
  3. 医療分野への応用の可能性
  4. 参考文献

高靱性と粘弾性

従来のハイドロゲルは、架橋剤を用いた化学架橋による共有結合で高分子鎖を繋いでいますが、このハイドロゲルは、直鎖両性高分子電解質から成り、イオン結合性物理架橋によるハイドロゲルです。このハイドロゲルは、高濃度のアニオン及びカチオン性モノマーを等電量混合したランダム共重合により得られます。

イオン結合による物理架橋 イオン結合による物理架橋

典型的なサンプルとして、アニオン性のsodium p-styrenesulphonate (NaSS)とカチオン性の3-(methacryloylamino)propyl-trimethylammonium chloride (MPTC)をモノマーとして用いています。このハイドロゲル中のイオン結合には、強い結合と弱い結合の二種類の相互作用が存在し、前者が化学架橋ハイドロゲルの共有結合として、後者は犠牲結合として振る舞います。

PAゲルは超分子構造を形成しており、含水率は50〜70 wt%を占めています。これは従来のハイドロゲルの含水率(80 wt%以上)と比べて低いですが、高い粘弾性、高靱性(破壊に必要なエネルギー = 4000 J・m-2)、100%自己修復性及び高い耐疲労性を示します。ヤング率(弾性率)を幅広くチューニングでき、いずれにおいてもPAゲルは高強度・高靱性を保ちます。引張試験において、PAゲルは0.1〜2 MPaの破壊応力及び150〜1,500%の破壊ひずみを示し、伸張に要する仕事量は、0.1〜7 MJ・m-3に達します。最新の結果では、従来の同含水率のハイドロゲルよりも2桁以上高い値を示し、高靱性DNゲルや軟組織及び充填ゴムに匹敵します。



自己修復性

可逆的なイオン性犠牲結合のより、PAゲルは切断しても接着しまた元に戻る自己修復性を示します。下図にあるように、2つのディスク状のP(NaSS-co-MPTC)ゲル(赤と青)を切断し、50 ℃で切断面を合わせると、数分で接着し、最初の1時間で30%程度回復します。またこの接合部分は大きな応力に耐えることができます。例えば、断面が5.2 mm2のリボン上の初期サンプルは、2 kg重に耐えることができ、回復したサンプルは、0.2 kg重に耐えることができます。

イオン結合による物理架橋

カチオン性のMPTCをより疎水性の低いDMAEA-Qに変更することで、P(NaSS-co-DMAEA-Q)ゲルは99%の自己修復を達しました。

医療分野への応用の可能性

これらのPAゲルは、細胞毒性試験やマクロファージを用いた免疫反応試験から極めて高い生体親和性及び生物付着阻害性を有することが示されています。これらの材料は、生理溶液の中でも幅広く機械的特性をチューニング可能であり、生物付着阻害性も相まって医療分野における生体構造材料としての可能性を秘めています。

参考文献

  1. Tao Lin Sun, Takayuki Kurokawa, Shinya Kuroda, Abu Bin Ihsan, Taigo Akasaki, Koshiro Sato, Md. Anamul Haque, Tasuku Nakajima, Jian Ping Gong “Physical Hydrogels Composed of Polyampholytes Demonstrate High Toughness and Viscoelasticity” Nature Materials, 12(10), 932-937 (2013).
  2. Abu Bin Ihsan, Tao Lin Sun, Shinya Kuroda, Md. Anamul Haque, Takayuki Kurokawa, Tasuku Nakajima, Jian Ping Gong “A Phase Diagram of Neutral Polyampholyte - From Solution to Tough Hydrogel” Journal of Materials Chemistiry B, 1(36), 4555-4562(2013).