北海道大学大学院先端生命科学研究院 先端融合科学研究部門 ソフト&ウェットマター研究室
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北大生になりたい方へ 高分子ゲル研究会

ゲルの低摩擦性

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つるるんゲル

普段、私たちの身の回りには至るところで摩擦が起こっています。ものを食べる時や、移動する時、字を書く時など、当たり前すぎて実感が湧かないかもしれません。
 皆さんは、そんな当たり前の現象について考えてみたことはありませんか? 例えばよく滑る、あるいは、ほとんど滑らないとは一体どういう事なのでしょうか?

高校で物理を学んだ人はもうすでに理解しているとは思いますが、摩擦とは物体と物体が接触している時に起こる現象です。そこから考えると、どうやら摩擦の大小というのは物体同士の接触に大きく関わっていると言えそうです

目次 (項目をクリックすると内容のトップにジャンプします)

  1. 固体の摩擦とゲルの摩擦
  2. 擬似生体環境での摩擦
  3. 摩擦界面の直接観察

固体の摩擦とゲルの摩擦

固体の摩擦

固体の摩擦には基本的に以下の3つの特徴が挙げられます。

1 摩擦力は垂直抗力に比例
2 摩擦力は接触面積に依存しない
3 動摩擦力はすべり速度に依存しない

そしてこの特徴を式として表したものが、
      F=μN
となります。ここでFは摩擦力、Nは垂直抗力を表しています。μは摩擦係数と呼ばれ、物質固有の定数です。つまり、摩擦力は垂直抗力のみに依存しているといえます。一般的な固体表面は、およそ0.1~1.0程度のμを示します。

固体の動摩擦

ゲルの摩擦

ゲルの摩擦は固体の摩擦とはかなり異なった性質を持っています。例えば、ゲルの摩擦には速度依存性という特徴があります。固体の摩擦では動いていればどんな速さでも摩擦力は垂直抗力のみに依存するのですが、ゲルに関しては速度に依存して摩擦力が変わるというデータが出ています。他にもゲルの場合の摩擦力は接触面積に依存するといったデータがあり、これも固体とは違った特徴といえます。また、ゲルのμは10-1~10-3前後の値となり、 固体のμに比べて極端に小さな値となっています。このようにゲルの摩擦にはまだ解明されていない面白い特徴が見られています。

前述の通り、生体内の摩擦の発生箇所は多量の水分を含んだゲル状の物質です。当研究室ではゲルの摩擦のメカニズムを調べることによって、生体内の摩擦の解明につながると考えています。また、低摩擦の研究は人工関節などへの応用の可能性も期待されています。

擬似生体環境での摩擦

関節に代表される生体内の低摩擦はいずれも広義ではゲルの摩擦と捉えられ、その摩擦界面には様々な高分子が介在しています。したがって、ゲルのもつ性質(柔軟性や高い濡れ性)と界面に存在する高分子の潤滑効果によって低摩擦が実現されていると考えられます。関節を例に挙げると、関節軟骨は主にコラーゲンとプロテオグリカンを骨格とするゲル状物質であり、関節液は数百万の分子量をもつHA(ヒアルロン酸)を主成分とした高い粘度をもつ高分子水溶液です。当研究室ではこのような生体内の低摩擦を模倣し、高分子水溶液中という擬似生体環境でのゲルの摩擦について研究を行っています。

PEG水溶液中でのPVAゲルの摩擦

その一例として、PEG(ポリエチレングリコール)水溶液中でのPVA(ポリビニルアルコール)ゲルの摩擦が挙げられます。この系では親水性のガラス基板に対して摩擦させたとき、PEGの濃度を上げると摩擦力が減少する傾向が見られ、効果の大きなところでは一桁程度の摩擦低減効果が観測されました。これは摩擦界面にPEGが介在し、ゲルと基板との直接接触を妨げていることに由来すると考えられます。また同様にHAを潤滑剤高分子に用いた実験も行っており、PEG以上の摩擦低減効果が得られることが分かっています。

ポリエチレングリコール水溶液中でのポリビニルアルコールゲルの摩擦

高荷重下での摩擦

上述のように擬似生体環境(高分子溶液中)でゲルはより大きな低摩擦性を示します。しかし一般にゲルは機械的強度に乏しく、高荷重に耐えることはできません。そこで、当研究室では高強度ゲルの項で紹介しているDNゲルを用いた摩擦研究も行っています。最近では関節並みの大荷重下でのDNゲルの摩擦において、HAが非常に大きな潤滑効果を示すことが分かってきており、高濃度のHA水溶液中で摩擦係数10-3~10-2という関節に匹敵する低摩擦性を示すことが分かってきています。

摩擦界面の直接観察

これまでに私たちの研究室で低摩擦ゲルを研究する理由について説明してきましたが、ゲルが接触しているところを直接目で見ることはできません。
そこで、私たちの研究室では、直接目では見ることができない高分子ゲルと基板の接触や、回転中の摩擦界面を、プリズムを用いて観察しようとしています。その方法として、臨界屈折法やエバネッセント波があります。

臨界屈折法では、ゲルとプリズムが接触している時とそうでない時の光の進み方の違いの差がカメラで撮影した時の明暗となり、それをもとにゲルの接触を観察しています。(図1参照)

全反射の原理を利用した観察方法

エバネッセント波とは、屈折率の高い物質から低い物質に光が入射する場合に、入射角を臨界角以上にすると全反射が起こりますが、その際に境界面から垂直に数百nmの厚さでしみ出す光の事です。この光を用いることで、非常に小さい領域での情報を得ることができます。(図2参照)

図2 エバネッセント波の概略図