北海道大学大学院先端生命科学研究院 先端融合科学研究部門 ソフト&ウェットマター研究室
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北大生になりたい方へ 高分子ゲル研究会

細胞足場ゲル

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細胞を操るゲル

私たちの研究室では、軟骨細胞、内皮細胞、ES細胞をハイドロゲル上で培養し、医療分野への応用に向けた基礎研究を行っています。
一般に生体内という極めて複雑な環境で起こる細胞の現象を一つずつ解明することはとても難しいといえます。そのため、細胞を抽出し、培養することで個々の性質を解析する必要がありますが、この培養環境が生体内の環境とかけ離れてしまっては意味がありません。
私たちは柔らかく水を多量に含んだ、生体に近い素材であるハイドロゲルを細胞の培養基板として選択しています。ハイドロゲルを用いて細胞を疑似的な生体環境に置くことで、細胞固有の性質を保持したまま培養することができます。これにより、複雑な生命現象を細胞一個体のレベルで観察することが可能となります。
最終的には、より生体に近い機能を発揮できる、人工組織や臓器を開発することが目的です。

目次 (項目をクリックすると内容のトップにジャンプします)

  1. 軟骨細胞
  2. 血管内皮細胞
  3. ES細胞

軟骨細胞

人体の関節軟骨は、一旦損傷を受けると通常の場合回復することが出来ません。そのため関節に疾病を持つ人は非常に多く、これからの高齢化社会において解決が望まれる問題の一つです。関節軟骨の再生医療にあたり、軟骨細胞を体外で効率よく培養することはとても重要なことですが、In vitroで軟骨細胞を二次元培養すると、軟骨細胞に特異的な遺伝子やタンパク質が減少してしまったり、細胞が繊維芽細胞表現型に脱分化したりしてしまうといったことが起こります。
私たちは3次元網目構造や粘弾性などの、細胞外マトリクスと似た特徴を持つゲルを培養基板として用いることで、脱分化を防いだ状態で軟骨細胞を培養することに成功しました。これは、ゲルが生体組織や器官の修復、再生へと応用するための新しい細胞培養基盤として有効であることを示しています

ハイドロゲルおよびポリスチレンを培養基盤とした軟骨細胞

血管内皮細胞

血管内皮細胞(ECs)の表面には糖鎖という高分子鎖が存在します。この糖鎖のおかげで血球はそれ自身よりも小さい血管中をスムーズに流れることができ、また血小板が血管について血栓となることを防いでいるといわれています。
現在主に用いられている人工血管はポリエステル繊維などで作られているため、血栓ができやすく、生体適合性も十分ではありません。そのため血管内皮細胞を人工培養し、再生医療へ応用することが望まれています。
当研究室では生体組織に近い性質を持つハイドロゲルを培養基盤として選択しました。なぜなら、通常行われるポリスチレン基盤上での培養では、ほとんど血管内皮細胞は糖鎖を分泌しないためです。アニオン性のハイドロゲルを基盤とした培養実験の結果、血管内皮細胞はゲルの化学的性質に影響を受け、糖鎖を分泌することがわかりました。
この研究結果から、ハイドロゲルによる人工血管を作り、血管内皮細胞を修飾することで、現在の人工血管の欠点を克服することができると考えられます。ハイドロゲルを用いた細胞培養が再生医療の分野において大きく貢献することが期待されています。

血管内皮細胞

ES細胞

ES細胞(胚性幹細胞)は、全ての生体組織に分化する能力を持っている事から万能細胞とも呼ばれ、今世界で最も注目されている研究分野の一つです。多くの研究者が再生医療への応用のために、ES細胞が示す分化多能性を解明しようと試みています。
私たちは、ゲルをES細胞の培養基板として、その化学構造や硬さを変えることで、ES細胞の未分化状態の持続性や、分化を制御することができないだろうかと考えました。
その結果、マウスES細胞をゲル基板上で培養したところ、ポリスチレン基板上の場合よりも未分化の状態を維持できることがわかりました。また、表面に負電荷を持つゲルよりも、電荷をもたないゲルのほうがより効果的であることも示されています。

ES細胞培養における培地の影響