北海道大学大学院先端生命科学研究院 ソフト&ウェットマター研究室
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骨との複合ゲル


Gel bonding to bone

高強度ハイドロゲルを次世代人工軟骨に臨床応用するために、ゲルを骨組織に直接固定する毒性のない手法を開発しました!動物実験により強固な接着が確認されています!

目次 (項目をクリックすると内容のトップにジャンプします)

  1. 1. 自然界での生体軟組織と硬組織との結合
  2. 2. 骨伝導ゲル(HAp/DNゲル)の創製
  3. 3. 動物実験によるHAp/DNゲルの骨伝導メカニズムの解明
  4. 参考文献

1. 自然界での生体軟組織と硬組織との結合

自然界にはたくさんの生物がいますが、生物の身体はどれも支持組織によって支えられています。支持組織とは身体を支える役割を担う組織で、硬い硬組織(骨)と柔らかい軟組織(腱、靭帯、皮膚、筋膜など)が該当します。臓器や血球などの身体の恒常性に関わる組織に対して、これらの組織は身体を支持し激しい運動やスムーズな動きを可能にする重要な役割を持ちます。このような生物の動きを実現するために、硬組織と軟組織は複雑に接続し合っていますが、この二つの組織はどのように繋がっているのでしょうか?フライドチキンや手羽先を食べたことがある方は、骨と腱や軟骨がとても強い力で結合していることを容易に想像できるでしょう。生物は、この組成や物性が全く異なる2つの組織の境界で「明確な繋ぎ目のない連続的な構造」を形成することで解決しています [1]

Gel bonding to bone

境界では、柔らかい組織から硬い組織へ徐々に移り変わっています。ここに異種材料間を強く接着させるヒントがあります。一方で、医療材料を生体内で固定するときは現在どのような方法があるでしょうか?既存の医療材料を生体内で固定する手法として、医療用接着剤や糸で縫う術式がありますが、残念ながら軟骨組織のように水分をたくさん保持しているハイドロゲルに対してはどちらも満足いく強度の固定はできません。水分量の多いゲルには接着剤がほとんど作用せず、糸を通すとその部分からゲルが裂けてしますからです。そのため、このような水をたくさん含んだ材料を固定する新たな接着法の開発が求められていました。

2. 骨伝導ゲル(HAp/DNゲル)の創製

現行の医療用人工軟組織として使われている材料は金属、セラミックス、プラスチックなどであり、いずれも乾いた硬い材料です。これらの材料は、実際の生体軟組織(軟骨、靭帯、腱など)と比べて遥かに硬い物性を持っています。そのため、私たちは軟組織の物性により近いソフト&ウェットな材料への転換が必要だと考えています。例えば、当研究室が開発したダブルネットワーク(DN)ゲルは90 %の水を含みながら、生体軟骨に匹敵する圧縮破断強度を示す高強度・高靱性ゲルで、次世代人工軟骨への応用が期待されています[2]。また、DNゲルは一般的に自然治癒しないと言われている軟骨組織の再生誘導に世界で初めて成功したことから、再生医療への応用も期待されています[3]。 ところで、軟組織は生体内で必ず他の組織(例えば骨)と結合しています。しかしながら、先述のようにゲル材料を骨に接着することは難しく、とりわけ2000年代に入ってから開発されてきた実用的な強度を有するハイドロゲルの骨接着の研究はほとんど行われてきませんでした。そこで私たちは、生体のメカニズムを利用することでこの問題を解決しました。骨は有機物のコラーゲン(20%)と無機物のハイドロキシアパタイト(HAp)(80%)からなる天然の有機無機複合材料で、優れた強度と靭性を併せ持った組織です。骨は骨折した際に割れた隙間を自然に修復する性質があり、この性質を上手く使い、骨伝導性を有するHApを人工関節や歯科用インプラントに被覆することで、生体骨が人工物と強固に結合することが知られています。そこで当研究室でも、この骨伝導性を示すHApをゲル表面に複合化することで、骨と強固に結合可能な骨伝導HAp/DNゲルを開発しました(動画1)[4][5][6]

動画から分かるように、HAp/DNゲルは曲げても引張っても壊れない強靭な材料で、さらにナノスケールのHAp凝集体がゲル網目と物理的に絡み合っているので長期間保存しても劣化しません。

3. 動物実験によるHAp/DNゲルの骨伝導メカニズムの解明

我々はさらに動物実験によって本HAp/DNゲルが生体内で骨と強固に接着可能であることを明らかにしました(動画2,3)。

動画はそれぞれウサギの頭蓋骨及び大腿骨にHAp/DNゲルを埋入して一か月後の力学試験の結果です。いずれの部位にもゲルは強固に結合し、接着強度がゲルの破断強度を超えたため、骨から剥がれずにゲルが切れる様子が観察されます。この高接着強度を達成している構造の詳細を観察するため、我々は透過型電子顕微鏡を用いて骨-ゲル境界構造を詳しく調べました。写真にあるように、ハイドロゲルと骨は明確な境界のない相互に侵入した傾斜構造を介して強固に結合していることが確認されました。

Gel bonding to bone

これは天然の組織に非常に類似した構造であり、生体にとって自然な接着手法と言えるでしょう。 現在我々は基礎研究に留まらず、HApをゲルに対して局所的に複合化することで骨との接着部位を制御したり、HAp/DNゲル上で細胞培養を行って細胞に与える影響を評価したりと、将来的な実用化に向けた研究を行っています。

参考文献

  1. Genin, G. M. & Thomopoulos, S. Unification through disarray.Nat. Mater. 16, 607–608 (2017).
  2. Gong, J., Katsuyama, Y., Kurokawa, T. & Osada, Y. Double-Network Hydrogels with Extremely High Mechanical Strength.Adv. Mater. 15, 1155–1158 (2003).
  3. Yasuda, K. et al. A Novel Double-Network Hydrogel Induces Spontaneous Articular Cartilage Regeneration in vivo in a Large Osteochondral Defect.Macromol. Biosci. 9, 307–316 (2009).
  4. Kiyama, R. et al. Micro patterning of hydroxyapatite by soft lithography on hydrogels for selective osteoconduction.Acta Biomater. 81, 60–69 (2018).
  5. Nonoyama, T., Wada, S., Kiyama, R. & Kitamura, N. Double-Network Hydrogels Strongly Bondable to Bones by Spontaneous Osteogenesis Penetration.Adv. Mater. 28, 6740–6745 (2016).
  6. Wada, S., Kitamura, N., Nonoyama, T., Kiyama, R. & Kurokawa, T. Hydroxyapatite-coated double network hydrogel directly bondable to the bone : Biological and biomechanical evaluations of the bonding property in an osteochondral defect. Acta Biomater. 44, 125–134 (2016).