北海道大学大学院先端生命科学研究院 先端融合科学研究部門 ソフト&ウェットマター研究室
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北大生になりたい方へ 高分子ゲル研究会

抗海洋生物付着ゲル

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くっつかないゲル

目次 (項目をクリックすると内容のトップにジャンプします)

  1. 概要
  2. フジツボとは
  3. ゲルの抗付着性
  4. 応用に向けて
  5. 参考文献

概要

皆さんはフジツボをご存知でしょうか?
フジツボとは海の生き物で、岩や船の底や漁業で用いる漁網、水面に浮かぶブイなど、どこにでも付着する海洋付着生物の一種です。海洋付着生物はフジツボの他に、藻類や貝類などが該当します。
さて、このフジツボですが、実は我々の生活に多大な迷惑をかけています。
前述の通りフジツボは多量に船底に付着します。そのため、船は重くなり、更に波との余分な摩擦力も発生するため、フジツボの有無によって消費する燃料は倍以上も異なります。また、海中に沈めた漁網にも大量に付着し、収穫しようとしていた魚が窒息死してしまいます。
ここまでの話では、「困るのは漁業関係の人達」だけと思われるかもしれません。しかし、問題はまだ続きます。
当然付着したフジツボを剥がそうとします。が、フジツボは非常に強く接着しているために、剥がすのに莫大な労力とお金がかかります。そこで用いられたのが、フジツボが付かない有機スズを含んだ塗料だったのですが、実はその塗料は環境にも人体にも有毒なものでした。そのため、フジツボの付着が我々の食の安全や環境を脅かすという結果に至りました。
また、冷却装置として海水を利用している臨海の原子力発電所でも、フジツボが多量に付着してしまい、剥がさなければ電力供給が止まってしまうという事態が起きています。
これらの理由によりフジツボは「付着汚損生物」とも呼ばれています。

フジツボの付着が割と身近な問題であることを少しは理解できたでしょうか?現在フジツボの付着を阻害する画期的な発明は為されておらず、世界中の研究者たちが人体や環境に無害な付着防止剤の研究をしています。
さて、何故我々の研究室にフジツボがいるのか、もうお分かりだと思います。
そう、フジツボはゲルには付着しないのです。しかも、フジツボのみでなくその他の海洋付着生物も付着しづらいことが、今までの我々の研究によりわかっています。
しかし、その理由は現在解明されていません。そのため我々は、フジツボを海洋付着生物のモデル生物として飼育し、ゲルの付着阻害メカニズムを解明すべく日々研究をしています。そして、ゲルのフジツボなどの付着生物が付着しない表面への利用が期待されています。

抗海洋生物の害

フジツボとは

そもそも「フジツボ」と聞いてその姿を想像できる人は少ないのではないでしょうか?フジツボを知っている人も、貝のような形を想像するでしょう。
フジツボは19世紀初めまで、貝などと同じ軟体動物と考えられていました。ところが、生まれたばかりの幼生がエビやカニの幼生と同じことから、実は甲殻類であることがわかったのです。
成体のフジツボは岩などに付着して、一生移動することはありません。しかし生まれたばかりの幼生は泳いでいます。そのため幼生の泳げる内に、自分が大人になっても一生暮らしていけるような適した場所を探し付着します。幼生が付着し成体へと変態することを「着生」と言います。着生したフジツボはその後の一生をその場にて過ごし、成長します。

フジツボの幼生と成体

ゲルの抗付着性

フジツボはありとあらゆる固体上に付着します。ではゲル上の場合はどうでしょうか。
それを示した実験結果を紹介します。

ゲルの種類とフジツボの付着数相関

これは化学構造の異なる様々なゲル上でのフジツボの5日後までの付着数を調べたグラフです。このグラフからゲル上でのフジツボの付着は固体上と比べ遥かに低い(もしくは全く付着しない)事がわかります。フジツボの幼生は一体何を基準にして着生する場所を選んでいるのでしょうか?フジツボの幼生は着生する場所を探すときに、実際に歩いてその場所を入念に調べます。本研究テーマでは、着生しやすい場所と着生しにくい場所(ゲルなど)を歩くとき、その歩き方に違いがないかどうかを観察するという研究も行っています。

応用に向けて

ゲルを新規防汚材料に応用する為、フィールドでのフジツボ付着試験も行っています。
実験室と実際の海では色々と環境が異なってしまいます。例えば、実際の海は波があり、フジツボ以外にも様々な生物が存在し、水温も変動し、昼と夜があります。ゲルに対するフジツボの付着や海洋中でのゲルの耐久性などを評価しています。
実験ではフジツボの付着しやすいポリエチレン製の板と、フジツボの付着しにくいゲル製の板を海に沈め1年後それらを引き上げて、どのよう な違いがあるのかを観察しました。結果は、ゲルにはフジツボだけではなく他の付着生物(ワカメなど)も付着しておらず、付着数にも大きな差がありました。

各j基盤上でのフジツボ全付着固体

参考文献

  1. Murosaki, Takaya Noguchi, Akira Kakugo, Ananda Putra, Takayuki Kurokawa, Hidemitsu Furukawa, Yoshihito Osada, Jian Ping Gong, Yasuyuki Nogata, Kiyotaka Matsumura, Erina Yoshimura, Nobuhiro Fusetani, "Antifouling activity of synthetic polymer gels against cyprids of the barnacle (Amphibalanus amphitrite) in vitro" , Biofouling The Journal of Bioadhesion and Biofilm Research, 25(4), 313-320(2009).
  2. Takayuki Murosaki, Takaya Noguchi, Kazuo Hashimoto, Akira Kakugo, Takayuki Kurokawa, Junji Saito, Yong Mei Chen, Hidemitsu Furukawa, Jian Ping Gong, “Antifouling Properties of Tough Gels against Barnacles in a Long-Term Marine Environment Experiment”, Biofouling, 25(7), 657-666(2009)